特許を取得するとは、技術に所有権を設定することです。
他社の特許技術とは他社の所有物なので、他社の特許技術を勝手に使ってはいけません。
しかし、自分たちが使っている技術が誰かの特許技術だと知らないこともあります。
あるいは、他社の特許技術だと知っているのに、それを無視して特許技術を使い続けることもあります。もし特許権者になにか言われたらそのときに考えよう、と思っているのかもしれません。

特許権者は自ら特許侵害を見つけ出し、証拠を集めた上で、権利行使をする必要があります。
どうやって特許侵害だと判断するのか
特許侵害を判断する流れは簡単にいえば3段階です。
第1段階:被疑製品を特定します。
被疑製品とは、特許侵害の疑いのある製品のことです。特許侵害訴訟では「イ号製品」ともよばれます。
被疑製品を見つけ、被疑製品に関する情報を集めます。
第2段階:特許の権利範囲を確認します。
自社特許を読み直し、請求項において定義される特許の権利範囲を確認します。
権利範囲が「攻撃可能範囲(射程)」です。
第3段階:抵触鑑定(侵害鑑定)をします。
自社特許の権利範囲に被疑製品が入っているかを確認します。
被疑製品が権利範囲にしっかりと入っていれば特許侵害です。少しでも外れていれば特許侵害ではありません。
第1段階の証拠集めが一番重要な作業です。
怪しい被疑製品があっても、証拠不十分だと権利行使しづらくなります。
特許侵害だと判断すれば、警告状を出します(「係争の入口/特許権者の立場から」参照)。
特許侵害の証拠をどうやって見つけるか
権利行使の第1歩は、被疑製品を探し出し、情報を集めることです。
情報集めの方法はいろいろあります。
1.製品を入手する
製品を入手できればベストです。
安価な日用品であれば簡単に購入できますが、自動車のように高額なものは入手しづらくなります。また、自動車のように一般販売されている製品よりも、産業機械のように販路が限定される製品の方が入手しづらくなります。入手しづらいときには、誰かに代理で購入してもらえないか、あるいは、すでに購入している人に被疑製品を見せてもらえないかを検討します。
被疑製品が公共の場に設置されているのなら、現場に行って確かめます。チケット券売機に関する特許であれば、被疑製品となっているチケット券売機を実際に使ってみます。
あとで抵触鑑定するために、使用時の写真や動画もスマホで撮っておきます。
インターネットサービスに関する特許であれば、被疑製品となっているインターネットサービスにユーザ登録してサービスを実際に利用してみます。
アルゴリズムに関する特許であっても、製品やサービスをしっかり使えば、特許侵害を確信できることがあります。
2.公開情報を集める
企業は製品を売るためにさまざまな情報を公開しています。
被疑製品に関する公開情報を分析することで、被疑製品の仕様が見えてきます。
まずは企業の製品紹介サイトを確認します。被疑製品の仕様や特徴がたっぷり載っていることもあります。ウェブサイトの情報だけでも特許侵害を確信できることは多々あります。
製品マニュアルも情報源になります。
多くの製品はマニュアルをPDFにしてダウンロードできるようになっています。
製品の解説動画も参考になります。
入手しづらい製品でも、製品の使い方がYouTubeにアップされていることはよくあります。ゲーム特許であれば、ゲームのプレイ動画を確認すれば特許侵害を見つけることができます。
製品の展示会やセミナーも特許侵害を見つける機会になります。
特許侵害を判断する上で知りたい情報があればさりげなく質問してみます。
企業は、製品を宣伝するためにさまざまな情報を発信します。
公開情報が豊富であればあるほど特許侵害を見つけやすくなります。
特許侵害を発見しやすい特許は良い特許
特許侵害を発見しやすい特許もあれば、特許侵害を発見しにくい特許もあります。
公開情報だけで特許侵害を発見できるように書かれている特許は良い特許です。
製品の外見やユーザインタフェース、操作方法などに焦点を当てている特許は、特許侵害を発見しやすい。
アルゴリズムの特許であっても、特許侵害を見つけやすい特許と見つけにくい特許があります。
たとえば、画像処理に関する技術の場合、画像処理の結果としてどのように画像が変化していくのかを表現する特許なら、特許侵害を発見しやすい。一方、画像処理中の内部データの処理過程を表現する特許は、特許侵害を発見しづらくなります。同じ技術でも、焦点の当て方によって特許の使いやすさが変わります。
新技術について特許出願するときには、この新技術についてのわかりやすいポイント、伝えやすいポイントを権利化します。こんなふうに権利化しておけば、公開情報だけで特許侵害を発見できます。
弾数も増やす
特許をたくさん取っていれば、特許侵害を発生させやすくなります。
特許が1件だけだと回避されてしまうこともありますし、被疑製品を捕らえきれないこともあります。
複数の特許があれば、被疑製品を捕らえる確率も高くなります。
弾数が増えれば当たりやすくなります。
自分がどんな特許を持っているのかを認識しておくことも大切です。
特許侵害が発生していても、特許権者本人が自社特許のことを忘れていれば意味がありません。
自社特許を技術分野別に整理し、権利範囲の広さに基づいてランク付けをしておくなど、武器としてすぐ取り出せるように管理しておきます。
手ごわい相手だと思わせる
特許侵害されても黙認する会社もあれば、特許侵害に敏感に反応する会社もあります。
特許侵害をされてもなんのアクションもしてこない会社の特許は怖くありません。その結果として、権利行使しない会社の特許は価値が下がります。
IBMは特許ライセンス収入が多いことで有名ですが、これは特許侵害の発見に力を入れているからです。
権利行使することで相手との接点ができるという面もあります。ライセンス交渉を通じて協業の道が開けることもあります。権利行使は相手企業とパイプをつくるための求愛行動のような側面もあります。
IBMは、特許ライセンス料を支払ってもらう代わりに追加の技術を提供するなどして相手方をサポートすることもあるといいます。
自社技術の価値を高める
新技術について特許を取得した以上、自社特許を尊重してもらわなければなりません。
自社特許を尊重してもらうためには、被疑製品を探す努力を惜しまず、特許技術であることをしっかりとアピールすることが大切です。
自社特許が尊重されるようになれば、自社技術の価値は高くなります。
参考:「特許侵害を判断するときの仕事の進め方」「係争実務/特許侵害訴訟(4)_訴訟の準備」