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ブレインストーミングの鉄則

三谷拓也 | 2021/12/26
複数の参加者が自由にアイディアを出し合う会議をブレインストーミングといいます(以下、「ブレスト」よぶ)。
弁理士は、ブレストに参加し、参加者たちからアイディアを聞き取って特許に仕上げることもあります。
ブレストに限らず、発明をふくらませるために追加的なアイディアを引き出す場面はよくあります。

会議が充実したものであれば、誰も想定していなかった素晴らしいアイディアが生まれることもめずらしくありません。
その一方、思いついたことを自己規制したり、他の参加者の思いつきについて問題点を指摘しすぎてしまうと、アイディアが出づらくなってしまいます。


アイディアのプロセス


アイディア創出をブロックしてしまう心理にはいくつかパターンがあるように思います。

アイディアに論理的に説明できる程度の具体性があれば、特許出願は可能です。
論理化されたアイディアを第1段階のアイディアとよぶことにします。
第1段階のアイディアの一部は、実際に製品化されます。
製品化対象となるアイディアを第2段階のアイディアとよぶことにします。

つまり、アイディアは、思いつき(着想)→第1段階のアイディア(特許出願可能)→第2段階のアイディア(製品化可能)→実行というプロセスを経て現実化します。

第1段階のアイディアの一部は、いろいろな事情により第2段階に移ることができません。
ここでいう「事情」は、アイディアそのものとは直接関係ないのですが、これがアイディア創出を邪魔します。

1.ハードウェアの制約


現在のハードウェアでは実現不可能、という事情はアイディアを制約します。
たとえば、人工知能技術であるディープラーニングが実現したのはハードウェアが進化したおかげですが、ディープラーニングのコンセプトそのものは古くからありました。
ハードウェアが非力な時代であってもディープラーニングに関する特許権は取得できたはずです。
現在のハードウェアでは実現困難なアイディアであっても、論理的には実現可能なアイディアであれば、将来のハードウェアの進歩を見越して特許権を取得することは可能です。

2.経済の制約


実現するにはお金がかかる、という事情もアイディアを制約します。
お金がかかるというのは第2段階の問題です。特許性とは関係がありません。
お金をかければ実現できるのなら、第1段階のアイディアとして成立しています。
お金のかかるアイディアなら、お金がかからない方法を考えることで次のアイディアが生まれることもあります。

3.業界常識の制約


業界的に受け入れられそうもない、という想定もアイディアを制約します。
たとえば、あるアイディアを製品化しても、お客さんが導入しているシステムとの親和性がよくないので買ってもらえそうもない、という理由でアイディアが自己規制されることがあります。

4.社内規程の制約


社内規程もアイディアを制約することがあります。
品質基準やリスク許容度などの社内規程上の理由により、そのアイディアは製品化できそうもない、と想定するとアイディアは出てこなくなります。
本来、アイディアの価値と社内規程は無関係ですが、アイディアを出すときに社内規程との照らし合わせを無意識にやってしまうこともあります。

5.法の規制


遵法精神がアイディアを抑制することもあります。
たとえば、YouTubeなどの動画配信には著作権の問題がつきまといます。
「法的な問題が生じるかもしれない」という遵法意識がアイディアの創出を止めてしまうこともあります。
特に、法の規制を受けやすい技術分野ほど、法の規制がアイディアの規制につながりやすくなります。
法的にダメだと思い込んでいた技術が実はセーフらしいと判明した途端にアイディアが出てくることもあります。
法規制も法解釈も変化しますので、法のことを気にしすぎるとアイディアが出づらくなります。

6.批判される可能性


アイディアと価値判断をセットにしてしまうと、アイディアが出なくなります。
今も展示されているのかどうかは知りませんが、シャープの本社でテレビのような形をしたラジオが展示されていました。
テレビが高価だった時代に、テレビを買えない人にテレビの所有感をもたせるために開発されたんだそうです。
こういうアイディアをおもしろいと肯定的に考えるか、バカバカしいと否定的に捉えるかは人によると思います。
バカバカしく見えるアイディアでも歓迎する雰囲気づくりはとても大事です。

着想と課題の分離


社歴の長い企業ほど、アイディアが出づらい、あるいは、小粒化しやすい傾向が見受けられるのは上記のような諸事情が影響するせいなのかもしれません。

第1段階のアイディアを出したあと、実際に特許出願する価値があるかを考えます。
第1段階のアイディアは課題を抱えていてもかまいません。

第1段階のアイディアを第2段階に移行させるときには課題が発生します。
課題がはっきりすれば、次は、その課題を克服するためのアイディアを検討します。

ブレストでは第2段階まで考えず、まずは第1段階のアイディアに専念すれば、画期的なアイディアを創出しやすくなります。

参考:「たくさんの発明がでてきたとき」「未来を予測した特許出願