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係争実務/特許侵害訴訟(5)_侵害訴訟概要

松尾卓哉 | 2022/04/03

訴訟の流れ

大まかにはこんなかんじです。

原告が訴状を提出することで訴訟が始まります。
裁判所から被告宛に訴状とともに法廷への呼出状と答弁書催告状が送達されます。
答弁書は訴状に対する答弁を記載した書面です。第1回口頭弁論期日前にその提出期限が設定されます。
だいたい訴状の送達から1ヶ月程度です。
ただ実際には、訴状を1ヶ月程度で詳細に分析して答弁書に反論内容をまとめるのは困難です。
このため、実務上は訴状に記載された事項の認否に留め、反論は次回書面で詳細に述べることになります。

第1回口頭弁論期日

原告と被告のそれぞれの代理人(弁護士、弁理士)が裁判所に出頭し、法廷での顔合わせがなされます。
法廷の奥方に裁判官席があり、その手前左右に当事者席があります。
左側に原告代理人、右側に被告代理人が着席します。
裁判官は裁判長、右陪席(裁判長からみて右側の裁判官)、左陪席(裁判長からみて左側の裁判官)の3人です。
裁判は3人の裁判官の合議で進行しますが、左陪席が主任裁判官として判決文の起案するのが通例です。
原告と被告の関係者(知財担当者等)は傍聴席から見守ります。
第1回口頭弁論期日では、訴状と答弁書の陳述(書面のとおりだと口頭で認めること)がなされます。
その後、裁判長から次回期日が設定されてその日は終了します。
これから裁判を開始するためのセレモニーのようなものです。

侵害論審理/弁論準備手続

まず、複数回の弁論準備手続を通して侵害論の審理がなされます。
裁判官の訴訟指揮のもと、被告の行為が原告の特許権を侵害しているか否かにつき当事者間で意見を戦わせます。
といっても法廷で激論を交わすわけではなく、期日前に反論書面(「準備書面」と呼ばれる)を提出しておき、
これを裁判所の準備室(会議室のようなもの)で陳述する形がとられます(弁論準備手続)。
準備室には大きなミーティングテーブルが置かれ、原告代理人と被告代理人とが向かい合って着席します。
予定時刻になると裁判長と主任裁判官が入室して上座に着席し、弁論準備手続(会議)が始められます。
その際、裁判官のほうから原告・被告のそれぞれに準備書面の内容について質問がなされたり、不備が指摘されたり、
不明点を解消するための課題が与えられたりします。
会議の進行は裁判長によってなされますが、判決文を起案するのは主任裁判官です。
各代理人は、主任裁判官が判決文を書きやすくなるよう論理的で説得力のある準備書面を用意する必要があります。
1~2ヶ月ごとに1回の準備手続がなされ、原告と被告が交互に準備書面を提出・陳述する形となります。
次回期日については、裁判長が双方の代理人の都合も考慮して柔軟に設定してくれます。
被告は非侵害の主張(特許無効の抗弁を含む)とともに特許庁に本件特許の無効審判を請求するのが一般的です。
侵害訴訟の進行過程であっても特許を無効にして遡及消滅させられれば、訴訟の前提を失わせることができるためです。
被告が無効審判で無効審決を勝ち得たとしても、原告はこれを不服として別の訴訟(審決取消訴訟)を提起してきます。
それでも侵害訴訟と審決取消訴訟とは裁判合議体が異なるため、侵害裁判の終結に先立って無効が確定する可能性はあります。
その意味でも、戦略的にやれることはやっておくべきでしょう。

和解

弁論準備手続を何度か繰り返し、裁判官(合議体)の心証がある程度かたまった段階でその心証開示と和解勧試がなされます。
侵害判断の場合、双方了解のもと被告が和解金を支払うことで訴訟を終結させることができます。
非侵害との判断がなされても、被告がある程度の和解金を支払うことで控訴審への移行を避けることができます。
控訴審で第一審の判決が覆ることもあるため、そのリスクも考えて判断します。
侵害判断がなされて和解に到らなかった場合、損害論に移ることとなります。

損害論審理/弁論準備手続

侵害が認定されると、引き続き複数回の弁論準備手続を通して損害論の審理がなされます。
原告は損害額をより高く算定してもらえるような証拠を提出します。
被告は逆に、損害額をより低く算定してもらえるような証拠を提出します。
損害額の推定規定があり(特許法102条)、これに基づくお互いの主張・立証がなされます。
被告は、被疑侵害品に対する原告特許の寄与率が低いことを示す証拠などを提出します。
損害論の審理においても裁判官(合議体)の心証がある程度かたまった段階でその心証開示と和解勧試がなされます。
控訴審へ移行して訴訟が長期化するリスクを考慮し、当事者間で条件が成立すればこの段階で和解に到ることもあります。

口頭弁論終結

和解に到らなかった場合、法廷にて口頭弁論終結が宣言されます。
一連の弁論準備手続が完了し、判決が下されることを予告するセレモニーです。
最後に判決の期日が通知されます。

判決

指定された期日に法廷で判決が言い渡されます。
特許訴訟では判決の結論のみが言い渡され、理由は判決文で確認することとなります。
判決に不服がある場合、知財高裁へ控訴することになります。