その原因の多くは、「発明の説明不足」ではなく、「前提(従来技術)の共有不足」にあります。
発明面談では「従来技術はだいたい分かっている前提」で話が進んでしまうことが少なくありません。
発明者にとっては当たり前の前提でも、弁理士にはその前提が共有されていないことは少なくありません。前提の共有ができていなければ、発明の本質も伝わらず、議論がかみ合わなくなります。

特許出願の質は、発明面談の質に大きく依存します。
発明面談の質は、弁理士の理解力だけでなく、発明者から弁理士への「情報の伝え方」によっても決まります。
本稿では、
・発明をどのように説明すれば伝わりやすいのか
・弁理士は発明面談でどんな情報を欲しがっているのか
について、実務視点から解説します。
発明面談で弁理士が確認する3つのポイント
弁理士が発明面談で確認したいポイントは、以下の3つです。
(1)今までどうやっていたのか(従来技術・前提)
(2)今までの何が問題なのか(課題)
(3)それをどうやって解決したのか(発明)
従来技術と課題、その解決策としての発明という構造は、特許明細書の骨格そのものでもあります。
この中で最重要は(1)です。
(1)についての弁理士の理解度が低ければ、(2)や(3)も正しく理解できません。
(1)さえ分かれば、発明理解の大半は終わっています。
発明面談で従来技術が最重要な理由
ほとんどの発明は、以下のように表現できます。
発明 = 従来技術 + 新規技術
従来技術(知られている技術)になんらかの工夫(新規技術)を施すことで、従来技術が抱えていた課題が解決されます。
弁理士は、発明者から聞いた情報をこの構造に落とし込もうとしています。
(3)だけを聞いても、それがどれほど価値や意味のあることなのかはわかりません。
(1)と(2)をしっかりと理解していれば(3)についても深く理解できます。
発明の価値を決めるものは「課題の重さ」です。
課題の重さを理解するためには、従来技術を正しく把握する必要があります。
逆に言えば(1)と(2)が曖昧なままだと、「うさんくさい特許明細書」になってしまいます。
従来技術とは発明の文脈です。
文脈がわからなければ発明を理解できません。
従来技術と新規技術の境界を見極める
弁理士は「どこまでが従来(既知)で、どこから新しいのか」を見極めています。
たとえば、発明Xが
A+B+C
という3つの要素で構成されているとします。
発明者はCが新しいと考えていたとしても、実際にはBも新規技術である場合があります。少なくともBは従来技術とも言い切れない、と判明することもあります。
発明面談では、
どこが従来技術で、どこが新規技術かを見極めること
が重要になります。
請求項はこの見極めの成果物です。
実例:ブロックチェーン発明の面談
実例として、ブロックチェーン関連の発明について特許出願をしたことがあります(カウリー株式会社)。
このケースでは、事前にいただいた発明資料では発明の詳細をほとんど理解できませんでした。そのため、ブロックチェーンの基本だけを予習して面談に臨みました。
(1)従来技術の理解:ブロックチェーンの仕組み
面談ではまず、ブロックチェーンの基本構造とマイニング(採掘)のアルゴリズムについて詳しく説明していただきました。
「従来技術」をしっかりと把握することで、発明を理解するための土台ができます。
(2)課題の特定:「フォーク」問題
本発明が解決したい課題は「フォーク」です。
ブロックチェーンは一本鎖であるべきですが、マイニング・アルゴリズムの都合により分岐(フォーク)が発生することがあります。
ブロックチェーンはフォークを解決する機能を備えていますが、この解決方法はやや強引であり、このような解決方法では取引の安定性が損なわれてしまうという課題があります。
ここまで理解できれば「何を解決したい発明なのか」が明確になります。
(3)解決手段の理解
最後に、この発明がどのようにフォーク問題を解決するのかを確認します。
課題の重さが理解できていれば、発明の意味や必要性についても納得できます。
なお、この発明は特許になっています(特許第6838260号)。
課題が明確だと発明面談はスムーズになる
ブロックチェーンには、「環境負荷が大きい」「取引処理が遅い」などいろいろな課題があります。この発明では「フォークを解決したい」という課題が明確でした。
フォークを中心として議論できたので、話が発散することなく、スムーズに発明を理解できました。
この発明は、原理的にフォークが発生しないアルゴリズムになっているのですが、いきなり新型アルゴリズムを説明されても理解できなかったと思います。
このように、
(1)従来技術
(2)課題
について共感・共有できれば、
(3)発明は自然と理解できるようになります。
発明面談は「発明」から始まることが多い
発明者が(1)(2)(3)を筋道立てて説明してくれるとは限りません。いきなり(3)から話が始まることもめずらしくありません。
(3)の話から聞くと、「言わんとすることはわかるけれども、なぜそんなことをしているのだろう」という感想になります。文脈がわからないからです。
弁理士は(3)の話を聞いているときに、
・発明の背景にある(1)(2)を推測し、
・不足している情報を補うための質問を考える
という作業を頭の中でしています。
すなわち、「(1:前提)→(2:課題)→(3:発明)の構造」を作る上で、どんな情報を引き出すべきかを考えています。
強い特許は「前提理解」から生まれる
発明面談の本質をまとめると、以下の通りです。
・出発点は従来技術
・従来技術が分かれば課題が分かる
・課題が分かれば発明がわかる
そして、
・発明の基本構造は「従来技術+新規技術」である
ということです。
面談前に、以下のチェックポイントを意識しておくだけで面談は変わります。
・発明よりも従来技術(現状)を理解してもらうことに力を注ぐ
・今まで何が不便だったのかを言語化する
発明面談で重要なことは、
・これまでどうしていたのか
・それの何が不便だったのか
をきちんと伝えることです。できれば、
・どうして今まで不便なままにしていたのか
も言語化できれば、発明をいっそう深く理解してもらいやすくなります。
(1)(2)(3)の構造を意識して説明すれば、発明はスムーズに伝わります。
そこまではできなくても、弁理士がどんなことを聞きたいのかを知っているだけでも、発明面談の質は確実にレベルアップします。
発明面談とは「前提を共有する場」です。
ここができれば、発明は自然と伝わります。
参考:「発明提案で差がつく「知財」にするための発明評価」「発明の核心とオールエレメントルール」