提案段階で発明を多面的に捉えておくことは、特許出願の進め方だけでなく、将来の特許ポートフォリオの方向性にも影響を与えます。
発明提案のときから発明の評価は始まる
発明が生まれたとき、「発明提案書(発明届)」が作成されます。
発明提案書のフォーマットは企業によってさまざまで、
・発明の内容
・発明の背景
・従来技術との差異
といった技術的事項のみを記載する企業もあれば、
・この発明はどの程度重要だと思うか
・事業への貢献度はどの程度か
といった発明の重要度に関する情報をあわせて記載させる企業もあります。

発明の重要度は、発明者本人が判断することもありますし、事業部長などの上司が判断することもあれば、知財部が判断することもあります。
評価結果によって特許出願の力の入れ方も変わる
発明提案後、知財部では次のような判断を行います。
・特許出願すべきか
・審査請求をすべきか
・外国出願を行うべきか
これらはいずれも、限られた知財予算をどこに配分するかという判断につながります。
企業によっては、
・重要発明:費用は高くてもいいので、しっかりとした明細書を書く。
・非重要発明:費用を抑えたいので、明細書は最小限でよい。
のように、重要度に応じて力の入れ方にメリハリをつけているところもあります。
「この発明はどのくらい重要なのか」という判断は、発明に投入されるべきリソースの配分を決定します。
発明の重要度を見極めるのは簡単ではない
重要発明かどうかの判断は、
・経営環境
・事業のフェーズ
・発明者や知財部の価値観
といった要素に大きく左右されます。
発明がなされた時点でその価値を完全に見極められるのであれば、重点投資すべき発明だけを選別できるはずでし、事業判断を間違えることはなくなるはずですが、現実はそうではありません。
当初は重要だと言われていた発明なのに、審査請求すらされなかったということもあります。逆に、防衛出願(他社の特許取得を防ぐ目的の出願)程度の評価だったのに、数年後に重要発明として扱われることもあります。
発明を「多面的」に評価する
発明の将来価値を完全に見通すことはできませんが、判断の合理性を高めることは可能です。
そのためには、複数の観点から発明を評価します。
ここで重要なのは、発明に点数を付けることではありません。
発明の性格や位置づけを整理し、関係者の認識をそろえることが目的です。
以下は、そのためのチェック項目の一例です。
1.発明の効果は何か(複数回答可)
□ コストが下がる
□ サイズが小さくなる
□ 省エネになる
□ 処理速度が速くなる
□ 安全性が高まる
□ 製品を使いやすくなる
□ 製品を作りやすくなる
□ ユーザに楽しみを与える
□ その他(・・・・)
2.誰にメリットがある発明か(複数回答可)
□ 製品・サービスの利用者
□ 製品製造者・製品開発者
□ 製品販売者・サービス提供者
□ その他(・・・・)
3.改良ポイントはどの技術領域か(複数回答可)
□ 機械・構造
□ 電気・電子
□ ソフトウェア
□ 材料・材質
□ その他(・・・・)
4.発明が設定している課題は以前から認識されていたか
□ 広く認識されていた
□ 認識していた人もいると思う
□ おそらく認識されていなかった
5.発明が設定している課題はどの程度解決されたか
□ 完全に解決された
□ 大幅に改善された
□ ある程度改善された
□ 少しだけ改善された
6.他社が同じ発明を思いついたら事業として製品に実装すると思うか
□ 実装する可能性が高い
□ 実装するかもしれない
□ 数年以内なら可能性がある
□ ないと思う
さらに、発明によって
・コストアップになる可能性
・サイズが大きくなる可能性
・使いにくくなる可能性
といった副作用についてもあわせて記録しておきます。
発明の副作用や欠点を認識することは、その発明の限界を理解するだけでなく、次の開発テーマや改良発明につながるヒントにもなります。
特許ポートフォリオづくりや管理にも役立つ
発明時点は、
・発明者が技術を最も深く理解している
・開発背景や狙いが鮮明
という、貴重なタイミングです。
このタイミングで、
・この発明は何を価値としているのか
・どの技術領域に属するのか
・将来どういう位置づけになりうるのか
といった簡単な評価を残しておくことで、
・どの特許がコア技術か
・どの特許が防衛的か
・どの特許を整理対象にするか
といった判断を、後年になっても行いやすくなります。
発明を多角的に評価することで、
・発明の位置づけを把握し、
・判断の軸を組織内で共有し、
・将来の意思決定に活用できる情報を整理する
ことが可能となります。
発明提案の段階で評価作業をしておけば、特許出願の質は自然と高まります。
さらに、その評価結果は、目先の出願判断だけでなく、後年の特許ポートフォリオ構築・管理を行ううえでも有用な基礎情報となります。
発明提案の段階で、「この発明をどう捉えるか」「どの観点で見るか」を意識するだけで、知財活動の質は変わります。
発明提案時の評価は、出願判断のためだけでなく、将来の特許戦略を支える“記録”でもあります。
参考:「発明の効果とは何か」「図解:特許ポートフォリオとは何か」