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図解:特許ポートフォリオとは何か

三谷拓也 | 2024/03/13

事業の手札


金融の世界における「ポートフォリオ」という言葉は、資産構成、すなわち、どのような金融資産をどのような割合で保有しているかを意味します。

特許の世界にも「特許ポートフォリオ」という言葉があります。

「特許ポートフォリオ」とは、特許構成、すなわち、何に関する特許をどのくらい保有しているかを意味します。「特許網(とっきょもう)」ともよばれます。


特許ポートフォリオは、カードゲームにおける「手札」のイメージに近いです。
カードゲームでは、手札によってプレイヤの優劣が決まります。
「良い特許ポートフォリオを持っている」というのは事業を有利に進めることのできる「良い手札を持っている」ということです。
特許ポートフォリオを見れば、各社の事業戦略や力関係、収益力がわかります。
 

特許ポートフォリオはナワバリ


事業には3つの領域があります。

1.自社の特許ポートフォリオとは、自社が特許で押さえている事業領地を意味します。他社は入ることができない事業上のナワバリです。
2.他社の特許ポートフォリオとは、他社が特許で押さえている事業領地のことです。自社は参入できない他社のナワバリです。
3.残りはフリーゾーン(無法地帯)であり、ここは自由競争となります。
 

特許ポートフォリオの変遷


なにか新しい事業のタネ(半導体、太陽電池、バイオエタノール、スマホゲーム・・・)が見えてきたとき、フロンティア(未開拓地)が生まれます(図1)。
最初は全体がフリーゾーン(水色)です。


以下、事業環境とともに特許ポートフォリオが変化していく様子を例示します。

新たに見えてきた事業SにA社が参入し、特許を取得します(図2)。
フリーゾーンだらけのフロンティアなのでA社は広い特許(事業領地)を確保できます(オレンジ色)。こうしてA社は特許ポートフォリオの形成を開始します。


A社が事業Sに参入したのを見て、B社も事業Sへの参入を決断し、特許を取得します(図3)。
まだまだフロンティアは大きいので、B社も広い事業領地を確保します(紫色)。A社とB社はそれぞれの特許ポートフォリオを作って棲み分けをしています。


A社は、事業Sで更にいくつかの特許を取得し、特許ポートフォリオを充実させます(図4)。
B社も次々に特許を取得し、自社の事業領地を着々と拡大します。


新たにC社が参入してきます(図5)。
A社とB社が大きな特許ポートフォリオを作り上げているので、C社の特許はニッチなものになります(青色)。
事業領地が狭くても、ニッチを磨き上げることで高い収益率を確保できる可能性はありますので遅れてきたC社にも儲けるチャンスはあります。


数年が経過し、さまざまな企業の新規参入や撤退により、事業SのメインプレーヤーはA,B,C,Dの4社に絞られたとします。4社は大小さまざまな特許を取得しています。
フリーゾーンも少なくなったので新規参入が難しい寡占度の高い事業になっています(図6)。


ここでA社とB社の初期の基本特許が期限切れになったとします。
基本特許の期限切れによって大きなフリーゾーンができたので、再び事業参入しやすくなります(図7)。
「低価格」などの独自の武器をもっている企業であれば、フリーゾーンでも勝算を立てられる可能性があります。


特許ポートフォリオの更新


独占力が落ちたために価格決定力を失ったA社は事業Sから撤退するかもしれません。
撤退にともなってA社が自社特許を手放せば、フリーゾーンはもっと広がります。
A社は、事業Sで充分に稼いだので撤退し、別の新規事業Rに経営資源を投入します。A社は、撤退事業Sから新規事業Rに知財予算をシフトさせ、特許ポートフォリオを作りかえていきます。

代替技術の開発により、事業S自体から顧客がいなくなり、全社が順次撤退していくこともあります。

特許ポートフォリオは、利益獲得を期待している事業領域に設定した採掘権のようなものと見ることもできます。
いちはやく成長事業をみつけて、良質な特許ポートフォリオを早期に確立することは、企業の高収益体質化につながります。

事業と特許は相互に影響する両輪です。

特許ポートフォリオは、投資先の事業に合わせて変化させていく必要があります。
あるいは、特許ポートフォリオに合わせて投資先が決まっていくこともあります。

参考:「特許は「時間」を稼ぐ」「マイルール製造法としての特許法