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特許評価で見るべきところ:請求項の広さ

三谷拓也 | 2026/01/04

 権利範囲が広い特許ほど、価値が高い

 
特許ならなんでも価値がある・・・というわけではありません。
高価値の特許もあれば、ほとんど価値のない特許もあります。

権利範囲が広い特許ほど価値があります。

不動産の場合、場所が同じなら、狭い土地よりも広い土地の方が高値で取引されます。
特許も同様で、権利範囲が広いほど業界に与えるインパクトは大きくなります。


保有特許の権利範囲が広ければ特許回避しづらいので、他社は類似製品を販売できなくなります。
広い特許は強力な参入障壁になります。

保有特許の権利範囲が狭ければ特許回避が簡単になるので、他社は類似製品を販売できます。
狭い特許は参入障壁としては弱くなります。
狭すぎる特許は参入障壁ですらなくなります。

特許の内実はさまざまであり、プラチナもガラクタもあります。

特許の権利範囲は「請求項」で決まる


特許の権利範囲は、請求項で決まります。

例として、次の2つの特許を比べてみます。
・特許1:「AとBを備える装置」
・特許2:「AとBとCとDとEを備える装置」
 
特許1では、
「AとBを備える装置」が侵害になります。
したがって、
A+B
A+B+C
A+B+X+Y
といった構成の製品はすべて特許侵害です。

特許2の場合
「A・B・C・D・Eのすべてを備える装置」だけが侵害となります。
したがって、
A+B+C+D+E
A+B+C+D+E+X
という構成の製品なら特許侵害ですが、以下のような一部が欠けた構成はすべて非侵害です。
・A+B+C
・A+B+C+D+X
・A+B+C+D+X+Y
 
請求項に記載される構成要件のすべてを含む製品のみが特許侵害になります(これを「オールエレメントルール」といいます)。
したがって、構成要件が増えるほど、権利範囲は狭くなります。

請求項に「何を書くか」だけでなく「何を書かないか」が、権利範囲の広さを決定します。
 

「権利範囲の広さ」を文字数で見る


請求項の文字数によって権利範囲の広さを定量化する、という考え方があります。

狭い特許は、請求項に余計なことを書いています。余計なことを書くから権利範囲が狭くなっているともいえます。
余計なことを書けば、請求項の文字数は増えます。

したがって、
・請求項の文字数が少ないほど、権利範囲は広い
・請求項の文字数が多いほど、権利範囲は狭い
という判定方法には一応の合理性があります。

文字数に限らず、請求項の行数、形態素数、あるいは、形態素の種類数を見るという方法も考えられます。

文字数に基づいて権利範囲の広さを判断する手法は合理的ですが、決定的ではありません。

・文字数が少なくても、たった一言が致命傷となり、権利範囲が極端に狭くなることもあります。
・文字数が多くても、慎重な言い回しに終始しているため、非常に広い権利範囲を確保できていることもあります。
 
多くの特許には何らかの弱点、いいかえれば、特許回避の糸口が存在します。
弱点が深刻なものであれば、その特許は「守っているようで守れていない特許」になります。
つまり、狭い特許です。
 

構成要件を分解して「必須」と「不要」を見極める


もっと深く権利範囲の広さを検討するときには、請求項を構造的に分析します。

 具体的には、請求項を次のような手順で分析します。

(1)独立項を選ぶ

分析対象となる独立項を選びます。
通常は請求項1ですが、複数の独立項がある場合には、それぞれについて検討します。
独立項は従属項よりも広いため、従属項の検討まで必要となる場面はほぼありません。

(2)構成要件を分解する

次に、独立項を構成要件に分解します。
「AとBとCを備える装置」であれば、構成要件はA、B、Cの3つです。
 
(3)構成要件を分類する

各構成要件を以下の3つに分類します。

特徴要件 → 発明の進歩性に寄与する部分。発明(技術思想)の核心です。
必須要件 → 進歩性には寄与しないが、特徴要件の前提として不可欠な部分。
補助要件 → 発明の前提とも言えない部分。
 
最も注意すべきは補助要件です。
補助要件は、特許回避を検討するときのターゲットになります。

具体例として、自転車のペダルの発明を考えてみます。
この発明の請求項には、ペダル、タイヤ、反射器(リフレクター)、カゴについての記載があるとします。

・ペダル → 特徴要件
・タイヤ → ペダルとは無関係だが、自転車の前提なので必須要件
・反射器(リフレクター) → これがなくても自転車は成立可能なので補助要件
・カゴ → これがなくても自転車は成立可能なので補助要件
 
反射器のない自転車の夜間走行は禁止されているので、反射器のない自転車というものは考えづらい。したがって、反射器(リフレクター)は補助要件ですが致命傷というほどではありません。

一方、カゴのない自転車はありえます。カゴに関する記載は権利範囲を無意味に狭めているといえます。

このように分類することで、
・発明を表現する上で、本当に必要な構成要件なのか?
を構成要件ごとに判断します。

(4)制限的表現を確認する

最後に、権利範囲を限定する制限的表現を洗い出します。
典型的には、以下のような表現です。
・数値限定
・具体的な表現(通信ネットワーク→LAN、Wi-Fi、光通信等)
・条件設定(「…であるときに限り」「…以内」)
・限定表現(「のみ」「同一の」「複数の」)
・否定表現(「…以外」「…ではない」)
 
LANと表現していれば、インターネット(広域網)は権利範囲から外れます。通信ネットワークと表現していれば、インターネットは権利範囲に含まれます。
一方、LANでしかありえない発明なら、LANという表現によって権利範囲が狭まることはありません。

各制限的表現について
・本当にやむを得ない限定なのか
・本来の技術思想を不必要に制限していないか
・制限的表現によって特許回避しやすくなっていないか
を検討します。

制限的表現は補助要件に含まれていることが多いですが、特徴要件や必須要件にも含まれていることもあります。
 

特許のパラドックス


制限的表現に見えない制限的表現もあります。

たとえば、
「xを有するAと、…するBを備える」という請求項の場合、
Aではなく、Bがxを有する可能性について検討します。

自社製品では構成要件Aにxを実装していても、他社製品が構成要件Bにxを実装すれば簡単に特許回避できます。
Bがxを実装しても商品競争力に変化がないのなら、「xを有するA」は強い制限的表現になります。

別の例として、
「AをBに向けて移動させる」という請求項の場合、
Aではなく、Bを動かすことでAとBを接近させるという実装の可能性を検討します。

自社製品では構成要件AをBに向けて移動させていても、他社製品が構成要件BをAに向けて移動させるのなら非侵害です。

自社製品を表現している請求項が、自社製品を守れているとは限りません。

特許にはパラドックスがあります。
自社製品のことばかりイメージして請求項をつくると、権利範囲が狭くなっていることに気づかなくなります。
 

権利範囲を「点数化」する


請求項をここまで分析した上で、
・スキがほぼない → 5点
・弱点はあるが実質的に問題にはならない → 4点
・特許回避は可能だが困難 → 3点
のようにルールを決めて点数化すれば、権利範囲の広さを定量化できます。

特許をたくさん取得するのは参入障壁を高めるためですが、権利範囲の狭い特許ばかりでは参入障壁にはなりません。

権利範囲の広い特許とは、特許回避をしづらい特許のことです。
特許回避をしづらい特許とは、余計なことを書いていない特許、無駄な限定をしていない特許のことです。

参考:「特許侵害だと言われても納得できない理由」「特許の価値をどうやって決めるか