特許ならなんでも価値がある・・・というわけではありません。
高価値の特許もあれば、ほとんど価値のない特許もあります。
不動産なら、広さと場所で価値が決まります。
特許評価も不動産評価と似ていて、特許の価値も広さと場所で決まります。
特許の「広さ」
不動産なら、広い土地ほど価値が高くなります。
地球上の土地のうち、占有権を有する土地の面積が不動産の価値を決めます。
特許の場合、土地に相当するものが、技術可能性という観念的な空間(以下、「技術空間」とよぶことにします)です。
特許とは、技術空間の一部に独占権を設定するものです。
特許の権利範囲が広いとは、技術空間における占有地が広いということです。
いいかえれば、実現可能なあらゆる想定技術のうち独占使用できる範囲の大きさが特許の価値を決めます。
たとえば、「人力により駆動される2輪以上の軽車両」である自転車についての特許P1を想定します。
特許P1は、自転車に関する技術可能性をまるごと独占しているため、非常に広い権利となります。
少し改良した、ライト付きの自転車についての特許P2であれば、自転車全体ではありませんが、ライト付き自転車に関する技術可能性を独占しています。
ライトが付いていない自転車は独占対象ではありません。
ライトの明るさを調整できる自転車についての特許P3であれば、ライト付き自転車全体ではありませんが、明るさ調整のできるライトが付いた自転車という技術可能性を独占しています。
明るさを調整できないライトが付いている自転車は独占対象ではありません。
権利範囲の広さはP1>P2>P3となりますので、一番価値が高いのは特許P1です。
特許の権利範囲は、請求項の書き方によって定まります。
請求項により独占したい技術が表現されるからです。
広そうに見えたけれども無駄な記載があるおかげで実は狭かったということもありますし、狭そうに見えたけれどもよく読んでみると案外広いということもあります。
不動産のように広さが目に見えるものではないので特許の「広さ」はわかりづらいのですが、慣れれば簡単にわかるようになります。
特許の「場所」
不動産なら、人が集まる土地ほど価値が高くなります。
人が集まる土地とは、人から注目される土地です。
特許の場合、みんなが注目する技術分野の発明であれば、価値が高くなります。
世の中が注目するものはどんどん変化するので、特許の価値は必ず「時価」となります。
たとえば、ガラケー(ガラパゴス・ケータイ)の特許は、スマホが一般化すると価値がなくなります。
逆に、ガラケー全盛時代においてはスマホ特許の価値は低かったはずです。
AI特許も、AIの実用性が高まると価値が高くなります。
AIの技術レベルが低くて、AIの実用性が限られていた時代には、AI特許の価値は今よりもずっと低かったといえます。
量子コンピュータはまだまだ発展途上ですが、量子コンピュータが「使える」ようになってくると、量子コンピュータ特許の価値は高くなります。
核融合の特許も、価値が出るかどうかはこれからの進展次第です。核融合実用化の目途が立つと、核融合特許の価値は急上昇するはずです。
広さがあり、立地もよし
不動産は、広くて場所がいいほど価値が高くなります。
同じ場所なら広い方が価値は高くなります。
同じ広さでも、田舎の土地と都会の土地では価値が違います。
田舎の土地であっても、駅ができるなど「人が集まる状況」が出てくると価値は高くなります。
特許も同じようなもので、注目されていない技術分野なら技術空間がスカスカなので権利範囲を広く確保しやすくなります。
一方、注目度の高い技術分野は技術空間の取りあいが激しいので広い権利範囲を確保するのは難しくなります。
したがって、注目度の低い技術分野で広い特許を取得しておき、そのあとに注目度がアップして特許の価値が高くなった、というのは理想的な特許の取り方となります。
注目度が低い技術分野で特許を取得していたところ、たまたま、技術が注目されるようになったという幸運なパターンもあれば、これから注目度が高くなると予想していた技術分野で特許を取得しておいたところ、狙い通りに注目度が高くなったという予測が当たるパターンもあります。
注目度の低い技術分野で特許を取得しておいて、その技術分野の注目度を高めるような経営戦略もあります。
特許の価値は、このほかにも、侵害を発見しやすいか、無効審判になっても生き残れるような対策をしてあるか、発明の効果が大きいか、権利期間がどのくらい残存しているか・・・などいろいろな要素で決まりますが、基本となるのは広さと場所です。
みんなが注目する技術分野で広い権利範囲を確保している特許は価値が高くなります。
いいかえれば、よい場所に大きく居座っているために、他人に邪魔だなと思われるような特許なら価値が高くなりますし、誰も気にしないような特許なら価値は低くなります。
価格と価値は違う
特許の「価格」は取引で決まります。
コラム「財務諸表に計上されない財産」でも書きましたが、自社特許は財務諸表には記載されません。
誰かから買ってきた特許なら財務諸表に載ります。
微妙な特許でも、1億円で買ったのなら1億円の特許になります。
すごい特許でも、1円で買ったのなら1円の特許です。
特許本来の潜在価値を評価しておけば、低価値の特許を高値で買ってしまったり(あるいは低価値の特許技術を信じて投資してしまったり)、高価値の特許を安値で売ってしまったりといった取引の失敗を防ぐことができます。
特許の価値は広さと場所で決まります。
参考:「JPEGを刺した100億円特許」「財務諸表に計上されない財産」