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特許侵害だと言われても納得できない理由

三谷拓也 | 2024/06/01
ある日、誰かから特許侵害だと警告されたとします。
こういうとき、素直には納得できない、というのが普通の感覚だと思います。

特許権は、知的財産権という財産権の一種です。
対象財産は、発明というアイディアです。
特許侵害とは、アイディアを奪われた、いいかえれば、アイディアに設定された財産権を侵害されたということです。


特許侵害を納得しづらい理由は、主に以下の4つではないかと思います。

理由1:発明が似ていない。
理由2:大した発明に見えない。
理由3:真似していない。
理由4:特許権者が怪しい。

理由1:発明が似ていない


アイディア(「発明」とよばれる技術思想)がまずあり、そのアイディアを具体化することで、製品が生まれます。

発明(思想)あっての製品(物体)です。
したがって、単一の発明に基づいて複数種類の製品が生まれることもあります。

著作権法は、アイディアの表現、すなわち、製品自体が似ているかを問題します。結果の類似を問題とします。
特許法は、アイディアが共通するかを問題にします。原因の類似を問題とします。
表現(完成形)が似ていなくても、同じアイディアだとみなされれば特許侵害になります。

特許法は、製品の原因になるアイディア自体を守る法律なので、著作権法よりも強力です。

特許法はこういうルールになっているので、特許権者の製品や特許明細書で説明されている製品例と自社製品はちっとも似ていないのに、アイディアとしては同じだと見なされて特許侵害になる、ということがありえます。

たとえば、自転車会社X(特許権者)が「2以上の車輪で動く機械」という特許を取得したとします。「2以上の車輪で動く機械」には自転車以外にも、自動車やオートバイも含まれます。
飛行機も離着陸のときに「2以上の車輪で動く機械」となるので特許侵害となります。




上の図のように、X社(特許権者)の特許は、自社製品(自転車)だけでなく、自社製品以外も広く権利範囲に含んでいます。
したがって、X社の特許「2以上の車輪で動く機械」の権利範囲にうっかり踏み込んでしまうと特許侵害になります。
特許明細書には自転車を想定した説明しか書いてなかったとしても、権利範囲が自転車に限定されるものではなければ、特許の権利範囲は自転車以外にも及びます。

X社の特許は、「2以上の車輪で機械を動かす」というアイディアを守っているのであり、このアイディアの表現形態が自転車なのか飛行機なのかについては関知していません。
 

理由2:大した発明に見えない


特許発明が当たり前すぎる発明であるとき、そもそも特許にしてはいけない発明なのではないかと思うことがあります。

たとえば、15年前に特許査定になった発明は、現在の感覚からするとありふれた発明かもしれませんが、15年前であれば斬新な発明だった可能性があります。
15年前にこの発明に思いついたのがすごいともいえます。
権利行使されたときにはすごいとは思えない発明でも、特許出願したときにはすごかったのかもしれません。
特許は、ワインや株のように時間が経つことで価値(存在感)が高まることがあります。

将来、「こんなありふれた技術で特許を取っているなんてズルい」と相手に思わせる発明はよい発明です。
 

理由3:真似していない


特許発明を真似したわけではなく、たまたま同じような発明を思いついただけという場合もあります。むしろ、たまたま他人の特許の権利範囲に入ってしまったという方が普通です。

特許法は、被疑侵害者が特許権者の真似をしたのかどうかは関知しません。たまたまであっても、特許の権利範囲に入ってしまえば特許侵害となります。

あるアイディアを考えて製品化したところ、そのアイディアがたまたま他人の特許の権利範囲に入っていたという場合であっても特許侵害になります。

特許は地雷のようなものです。
踏んだらアウトです。
 

理由4:特許権者が怪しい


特許権者の素性が怪しいということもあります。
たとえば、特許権者がNPE(Non-Practicing Entity:不実施主体)であって、自らは事業を行っていないのに特許の権利行使をしてきた場合には、特許侵害を納得しづらいかもしれません。
特許権者が自ら発明をしているとは限らず、他社から買ってきた特許を使って権利行使してくることもあります。

特許は、特許発明を無断実施した人を訴える権利、簡単に言えば、攻撃ライセンスです。
この攻撃ライセンスがあるので、特許権者による特許発明の独占実施権が確立される、という構造になっています。

したがって、特許権者がどんなに怪しかろうとも、特許の正当保有者である以上は権利行使(攻撃)をする資格があります。

特許のルール


まとめると、
(1)違う発明のように見えても特許の権利範囲に入ることがある。
(2)特許になっている以上、発明の優劣を論じても仕方がない。
(3)わざとではない、知らなかったという言い訳は通用しない。
(4)相手が誰であれ、特許権者である以上、攻撃する権利がある。
ということになります。

発明は富の源泉なので、発明に対する開発投資を守るために特許制度は上記のようなルールで運用されています。
特に、特許出願時に発明を深く検討しているほど、権利行使時に(1)(2)が影響しやすい特許となります。
強い特許は、少々の設計変更では逃げづらい、出願時に獲得可能だった最大権利範囲に近い権利範囲が設定されている、という特徴があります。

※特許侵害だと言われたときの対策は、コラム「特許を侵害しているかもしれない」をご参照ください。

参考:「「知らなかった」は通用しない、特許侵害」「特許を侵害しているかもしれない