特許権は、財産権(知的財産権)です。
したがって、特許侵害は財産権の侵害となります。
このため、特許侵害をすると「償い」をしなければなりません。
特許侵害の償い方としては、
・差止め
・損害賠償
・信用回復措置
・刑事罰
があります。
差止めにより、特許侵害をしている製品の出荷や、特許侵害しているサービスの提供が禁止されます。
損害賠償とは、特許侵害の迷惑料を支払うことです。厳密には損害賠償請求と不当利得返還請求がありますが、お金を払うという点では共通するので以下においては「損害賠償」としてまとめます。
信用回復措置とは、謝罪広告を掲載するなどして公式謝罪することです。
刑事罰としては、懲役・罰金があります。
特許侵害の場合には、信用回復措置や刑事罰まで問題になることはめったにないので、差止め(事業停止)と損害賠償(突発的支出)が主要な論点となります。
差止めは最強のカード
特許法における差止めとは、特許侵害という不法行為をやめさせることです。
具体的には、特許侵害と認定された製品の出荷が停止されます。たとえば、ある半導体メモリが特許侵害と認定されると、この半導体メモリを販売できなくなります。
特許侵害が認定されたサービスも停止されます。インターネット証券会社のサービスが特許侵害と認定されると、この会社は証券サービスを継続できなくなります。
差止めをされると、売上がなくなってしまうだけでなく、顧客にも迷惑をかけることになります。
特許侵害の疑いのある製品には「差止められるリスク」がありますので、実際に差止めにならなくてもビジネス上の支障が出てきます。
たとえば、X社が、A社とB社のどちらかを調達先として決めるとき、A社の製品に特許侵害の可能性があるときには、A社の製品を採用しづらくなります。
将来の差止めにより安定調達に支障が出るかもしれないからです。
既存顧客が離れていくこともあります。
A社の既存顧客であるY社がA社製品の特許リスクを認識した場合、リスク管理のために調達先をA社からB社に変更する可能性もあります。
A社製品がB社特許を侵害している場合には、B社は自社特許をつかってA社を排除してくる可能性があります。
B社にとって、自社特許は強力な営業上の武器になります。
差止めとは営業停止処分のようなものです。
差止めは顧客基盤を失うリスクもあります。
特許権者にとって差止めは最強のカードとなります。
損害賠償という突発的支出
損害賠償は、会計上は特別損失として処理されることが多いようです。
損害賠償額がどれくらいになるかは予見しづらく、軽傷で済むこともあれば、数年分の営業利益をふっとばされたというケースもあります。
損害賠償額の支払いが数年にわたって経営上の重荷になることもあります。そうなると企業価値も下がります。
損害賠償も、金額によっては深刻な事態になることがあります。
このため、普段は粛々と知財業務をやっている会社でも、有事になると知財予算というリミッターは外れます。
負の影響
特許侵害をする会社、というイメージはブランド価値を下げます。
どちらかというと、特許侵害をしたという事実よりも、特許侵害が発生したときの対応のまずさが、企業イメージの悪化につながります。
特許侵害訴訟まで発展すると、業務に支障が出ます。
スタートアップや中小企業など、もともとの人的リソースが少ないところでは、特許侵害訴訟に巻き込まれると業務が大幅に停滞します。負けると、会社が立ちゆかなくなる可能性もあります。
売上が下がる、顧客が離れる、損害賠償額が大きい、業務が停滞する、企業イメージが悪化する・・・など、特許侵害問題はこじれると面倒なことになります。
知らなかったは関係ない
特許侵害は、侵害するつもりはなかったけれど結果として侵害していた、つまり悪気はなかったという方が一般的です。
特許侵害を防ぐために、特許庁は、すべての特許をインターネットで公開しています。
企業は、日本に存在する膨大な数の特許をすべて確認し、特許侵害にならないようにビジネスをすることを要請されています。そのために、特許が公開されているのです。
企業は、世の中にどんな特許があるのかを把握し、アイディアを盗んだと思われないように気をつけなければなりません。
真似したわけではなくてたまたま同じアイディアを考えただけ、という言い訳は通用しません(※一部例外はあります)。
特許の数は非常に多いですし、毎日のように新しい特許が成立しますので、これはかなり厳しい設定です。
おそらく、特許法ができたときには、これほど膨大な数の特許が存在する世界になるとは想定していなかったのではないかと思います。
特許侵害をしないためには
特許侵害を防ぐためには、まず、新規のビジネスをするときには関連特許を徹底的に調べ上げるという作業(クリアランス調査)をします。
新製品や新サービスがどこかの特許を侵害しそうなら、企画段階で設計変更をすることでリスク対策をしておきます。
判断が難しい特許があれば、弁理士に抵触鑑定(侵害鑑定)を依頼し、鑑定書を書いてもらいます。
また、定常業務として、新しく成立した特許を定期的に監視する体制をつくります。
たとえば、自社ビジネスに関連する技術分野について1ヶ月に1回程度、特許庁が新規公開した特許を確認し、ビジネスへの影響が発生していないかを検討します。
危険な特許があれば早期発見して対策をします。
より好ましくは、特許成立前の段階から監視しておき、危険な特許が成立しそうなときには、審査官に特許性を否定するための情報を提供することで特許成立を妨害します。
ここまで社内体制を整備しておけば、特許侵害のリスクを大幅に下げることができます。
自社のアイディアを権利化することも重要ですが、他社がどのようなアイディアを権利化しているのかを監視することも同じくらい重要なのです。
参考:「係争実務/特許侵害訴訟(1)」「特許を侵害しているかもしれない」