特許は技術の付加価値を守ります。
ある技術分野における技術のレベルを「レベル1」とします(以下、「LV1技術」とよぶ)。
X社は、同分野においてレベル2の技術、すなわち、LV2技術を発明したとします。
LV2技術は、LV1技術にはない付加価値Vを提供します。
つまり、LV2技術=LV1技術+付加価値V、です。
付加価値Vとしては、解像度10倍、雑音10%削減など性能に関する価値や、トイレのウォシュレット、停電時の自動バックアップなど追加機能による価値のようにいろいろなものがあります。
LV2技術には、特有の構成に基づく特有の効果(付加価値V)があるので、特許を取得できます(以下、「LV2特許」とよぶ)。
ただし、特許を取得できたからといっても、付加価値Vが市場で受け入れられるかどうかはわかりません。
付加価値とは絶対的なものではなく、付加価値を感じるかどうかは人によります。
新技術が普及すれば特許も価値を持つ
X社はLV2特許を取得して、LV2技術を搭載した製品PX(V)を発売すれば、X社は付加価値Vを独占的に提供できます。
付加価値Vを欲しいユーザは、製品PX(V)を買うしかありません。X社がLV2特許を持っているので、他社は付加価値Vを提供できないからです。
ユーザが付加価値Vに魅力を感じるのならLV2特許は高価値特許となります。
一方、ユーザが付加価値Vに魅力を感じないのなら、製品PX(V)は売れないし、LV2特許は低価値特許となります。
ユーザがLV1技術で充分に満足しているのなら、付加価値Vにお金を払うことはありません。
某社は、ある電子製品の次世代技術を開発し、特許も取得しています。しかし、現世代技術の性能でみんな満足しているので次世代技術に対する需要が出てこない。
そのうち、現世代技術による製品が値下がりして外国企業に市場を奪われていきます。
技術で勝っているのに商売では負けているというパターンです。
LV2特許を取得できたものの、LV2技術が先進的すぎて、製品化できないこともあります。
先進的な技術でありながら、トレンドが来ないので、そのまま陽の目を見ることなく忘れ去られてしまう特許はたくさんあります。
LV2技術の実現可能性が見通せないうちは、LV2特許はやはり低価値特許です。
新技術が提供する付加価値と新技術を導入するコスト
製品PX(V)を導入するときには、買い替えにともなう出費や、付加価値Vを使いこなすための学習のめんどうくささ、新技術特有のトラブルに対する不安感など、ユーザにはいろいろなコスト(負担感)が発生します。
新技術には付加価値もありますが、多かれ少なかれ導入にともなうコスト(ハードル)もあります。
ユーザにとっての付加価値VがコストC以上であれば(V>C)、ユーザは付加価値Vに魅力を感じて製品PX(V)を購入します。
コストCが付加価値Vを上回るのなら(C>V)、製品PX(V)の需要が出てこないので、当然LV2特許の価値も上がりません。
以前、「ボーカルの息づかいまで聞こえる(くらいの超高音質)」というキャッチフレーズの高級オーディオ製品がありました。
高音質は重要ですが、高い料金を払ってまでボーカルの息づかいまで聞きたいと思うユーザがどれくらいいるのかはよくわかりません。
EV(電気自動車)には、ガソリン車にはない付加価値がありますが、欠点や不安もあるのでEVがガソリン車を凌駕するとは限りません。
ハードルを下げる技術
LV2技術を普及させるためには、宣伝と説明により付加価値Vの大きさをユーザに感じてもらうというのが一般的なやり方です。
技術面では、LV2技術よりも付加価値は低いがコスト(ハードル)も低いLV1.5技術を開発するという方法もあります。
LV1.5特許も取得しておきます。
ユーザにLV1.5技術を体験してもらうことで付加価値Vを認識してもらい、より上位のLV2技術への欲求を喚起します。
LV1.5技術を安価に提供することでユーザの裾野を拡大した上で、ユーザを将来的にLV2技術へと誘導します。
技術普及のために、LV1.5特許を開放するという方法もあります。
あるいは、LV2技術を導入しやすくなるような関連技術を開発します。
こういった関連技術を開発することでも、LV2技術を導入する上でのハードルを下げることができます。
電動機とガソリンエンジンのハイブリッド車は、従来型のガソリンエンジンにEVを組み合わせることでEVの欠点をカバーしつつ、EVの特徴を活かすことで特有の価値をつくっています。
ハイブリッド車は、完全EVが実現するまでのつなぎの技術にすぎないともいわれていましたが、結果的にはロングセラーとなっています。
LV2技術を開発したときには、LV2技術の導入につながる中間的な技術も開発することで、LV2技術の需要を喚起できます。
新技術を開発するだけでなく、新技術のハードルを下げる技術を開発することも大事です。
参考:「経営者のためのオープン・クローズ戦略」「未来を予測した特許出願」