少なくとも、楽器の発明は、文字の発明よりも先であったことは間違いありません。
楽器は生きていくために必要なものではありません。
楽器を使う生き物は人間だけです。楽器は文明の証なのかもしれません。

楽器の歴史を調べてみると、パイプオルガンの原型は紀元前3世紀に発明されたそうです。
ピアノは、1709年にイタリアで発明されました。
バイオリンは16世紀に現われ、しかも、誕生時点で現代のバイオリンに近い完成度だったと言われています。
国際特許分類(IPC)
楽器の開発は、現代でも続いています。
特許を調べることで、楽器の開発状況を知ることができます。
すべての特許出願には、IPC(International Patent Classification)とよばれる国際特許分類が付与されます。
IPCは条約に基づいて定められており、世界共通です。
たとえば、IPCの「G10クラス」は「楽器・音響」に関する発明に付与されるクラスです。
IPCをつかって、過去5年間(2016年1月~2021年1月)の特許出願を以下の7分類について調べました。
(A)オルガンに関する発明(G10B1/00、G10B3/00)
(B)ピアノに関する発明(G10C1/00、G10C3/00)
(C)弦楽器に関する発明(G10D1/00、G10D3/00)
バイオリン、ハープ、マンドリン、ギターなどが該当します。
(D)管楽器に関する発明(G10D7/00、G10D9/00)
オーボエ、フルート、リコーダー、クラリネット、サキソフォーン、ハーモニカなどが該当します。
(E)打楽器に関する発明(G10D13/00)
ドラム、タンバリン、カスタネット、シンバルなどが該当します。
(F)電気楽器に関する発明(G10H)
電気信号に変換してスピーカから出力するものです。
たとえば、エレキギターは、(C)弦楽器でもあり(F)電気楽器でもあります。
エレキギターのように楽器によっては複数の分類に該当するものもあります。
日本の開発傾向
日本出願の場合、各分野の出願件数は下記の通りでした。

(A)オルガンに関する日本出願は134件ありました。
ヤマハ(60件)、カシオ計算機(35件)、河合楽器製作所(35件)の3社でほぼカバーされています。
(B)ピアノに関する日本出願は89件でした。
オルガンに比べるとピアノは開発(改良)の余地あるいは改良のニーズが少ないのかもしれません。
ヤマハ(32件)、河合楽器製作所(21件)、カシオ計算機(10件)がトップ3です。
オルガン関連企業とピアノ関連企業は類似しています。
(C)弦楽器に関する日本出願は222件でした。
ヤマハ(21件)が最多ですが、弦楽器に関わる企業は多様です。
弦楽器に関しては個人の発明が多いことがわかりました。
(D)管楽器に関する日本出願は115件でした。
ヤマハ(14件)が最多ですが、弦楽器と同じく、関連企業は多様であり、個人の発明も多いです。
(E)打楽器に関する日本出願は163件でした。
ヤマハ(36件)、ローランド(16件)、ATV(16件)がトップ3です。
(F)電子楽器に関する日本出願は927件でした。
電子系の発明が多いのは、新しいテクノロジーを取り入れる余地が大きいからかもしれません。
ヤマハ(286件)、カシオ計算機(238件)が双璧です。
日本の楽器開発は、全般的にヤマハがリードしていることがわかります。
河合楽器製作所は、オルガンやピアノなどの鍵盤系を得意としていることも推測されます。
世界の開発傾向
世界の楽器関連出願についても5年分を調べてみました。
国際出願(PCT出願)されているものを対象として調べた結果は下記のとおりです。

(A)オルガンに関する国際出願は70件ありました。
日本からの国際出願が63件と圧倒的でした。世界的傾向としてオルガンの開発・改良はあまり行われていないようです。
(B)ピアノに関する国際出願は71件でした。
日本の40件が圧倒的です。中国の9件が2位でした。
(C)弦楽器に関する国際出願は213件でした。
アメリカ(44件)、日本(33件)、中国(25件)がトップ3です。
(D)管楽器に関する国際出願は79件でした。
日本(19件)、フランス(10件)、アメリカ(9件)と続きますが、いろいろな国で発明されています。
(E)打楽器に関する国際出願は103件でした。
アメリカ(34件)と日本(33件)が双璧です。
(F)電子楽器に関する国際出願は762件でした。
日本が343件でダントツです。次がアメリカの127件でした。
こうしてみると、日本は楽器開発が世界一盛んな国だということがわかります。
また、世界全体として、オルガンやピアノなどの鍵盤楽器よりも、弦楽器や打楽器の技術開発の方が活発であることもわかります。
特許の分析
IPCはもっと細かく見ることができますので、更に調べれば、より詳しく楽器の開発状況を見ることができます。
たとえば、ギターを開発しているメーカーはどこなのか、ギターのどの部分の開発がホットなのか、といった分析も可能です。
このような分析結果をパテントマップ(特許の地図)といいます。
特許を見ることで企業分析ができます。
特許情報から、技術開発の方向性や、活発度、レベルを見ることができますので、投資を判断するための有用な情報にもなります。
参考:「日本人の生涯平均発明件数」「特許の歴史」