以下の前提で調べてみました。
・特許出願した発明であること。
特許査定されることは条件としません。コストをかけて特許出願するということは発明をしているとみなします。
・発明をする時期は25歳~45歳の20年間。
子どもでも高齢者でも発明をすることはありますが、多くの発明者はだいたいこのくらいの年齢にあると仮定しました。
・実用新案は対象外とする。
本来は含めるべきですが、特許出願に比べると2桁ほど件数が少ないので除外しました。
・共同発明であっても1件の発明をしたとみなす。
結論として、日本の研究開発者の生涯平均発明件数は約23件という結果になりました。
「発明者」になったことのある日本人の割合
特許庁の公表データによると、日本の特許出願件数は、
・2016年は318,381件。このうち内国出願は260,244件。
・2017年は318,481件。このうち内国出願は260,292件。
・2018年は313,567件。このうち内国出願は253,630件。
です。
内国出願とは、日本在住の出願人による日本への特許出願のことです。
内国出願だけで集計すると、1年あたりの特許出願数の平均は約26万件(258,055件)です。
複数の発明者がアイディアを出し合って1件の特許出願になることが多いです。
無作為抽出で50件ほど調べてみたところ、1件あたりの発明者数は平均2.94人でした。
これは、だいたい経験則に合っているように思います。
そこで、1件の特許出願に関わる発明者は平均3人である仮定しました。
ここから、約26万件の特許出願(1年分)に関わる発明者の延べ人数は特許出願件数の3倍である約77万人(774,165人)と推定されます。
総務省のデータによると、日本の総人口は1億2599万人です(2020年1月)。
発明に関わる約77万人を総人口の約1億2600万人で割ると約0.0061です。
日本人のうち、1年あたりの発明創出に関わっている人は全人口の0.6%ということになります。
ただし、実際には、一部の発明者だけがたくさん特許出願しているはずなので、実際の数値はもっと低いはずです。
日本の研究開発者の生涯平均発明件数
総務省が発表している「平成30年科学技術研究調査結果」という報告書によれば、日本で研究開発活動に携わっている人(以下、「研究開発者」とよびます)は、約86万7000人います。
業務の一部で研究開発を行っている場合もありますので、フルタイムで計算すると研究開発者の人口は約67万6000人になると想定されています。
日本の特許出願のほとんどは研究開発者によって生み出されていると考えられますので、発明に関わる約77万人を研究開発者の人口(約68万人)で割ると約1.15となります。
したがって、1年間という期間において、研究開発者1人あたり約1.15件の特許出願(発明)に関わっていることになります。
発明をする期間を20年(25~45歳)として計算すると、研究開発者1人あたり、一生の間に約22.9件の発明をすることになります。
すなわち、日本の研究開発者は、平均すると一生の間に約23件の特許出願に関わっている(約23件の発明創出に貢献している)ことになります。
この23件の中には他の研究開発者と共同で考えた発明もあれば、単独で考えた発明も含まれています。
以下、このようにして推定した生涯平均発明件数のことを発明創出指数とよぶことにします。
なお、研究開発者に限らず、日本人全体(1億2600万人)を対象として計算すると、発明創出指数は0.12でした。
総務省の上記報告書によれば、日本の年間の科学技術研究費は19兆504億円です。
この科学技術研究費の成果が約26万件の特許出願として結実しているとするならば、特許出願1件の創出につき約7600万円の研究開発費を投入している計算になります。
次に、日本全体ではなく、日本を代表する企業を対象として同じような調査をしてみます。
トヨタ自動車株式会社
トヨタ自動車株式会社は、日本を代表する巨大企業です。連結ベースでの社員数は約36万人です。
トヨタ自動車株式会社の特許出願件数は、
・2016年は6,114件。
・2017年は6,410件。
・2018年は6,985件。
3年間の平均は6,503件です。
上記と同様にして計算すると、トヨタの発明創出指数は約1.08となります。
※6503件×3人÷36万人×20年≒1.08
研究開発者に限れば発明創出指数はもっと高くなるはずですが、企業の研究開発者数がわからないので、連結ベースの社員数で計算しました。
トヨタ自動車の競合企業として、本田技研株式会社(ホンダ)と日産自動車株式会社についても同条件にて調べてみたところ、
・本田技研株式会社の発明創出係数は約0.62
・日産自動車株式会社の発明創出係数は約0.28
でした。
キーエンス株式会社
キーエンス株式会社は、抜群の営業利益率を誇り、社員の平均年収が2000万円を超えるといわれる超優良企業です。連結ベースでの社員数は約8,400人です。
キーエンスの特許出願件数は、
・2016年は106件。
・2017年は118件。
・2018年は101件。
3年間の平均は108件です。
キーエンスの発明創出指数は約0.77となりました。
※108件×3人÷8400人×20年≒0.77
キーエンスの競合企業として、オムロン株式会社とファナック株式会社についても調べてみたところ、
・オムロン株式会社の発明創出係数は約1.68
・ファナック株式会社の発明創出係数は約4.96
でした。
ソニー株式会社
最後に、日本を代表する有名企業であるソニー株式会社について調べました。ソニー株式会社の連結ベースでの社員数は約11万人です。
ソニー株式会社の特許出願件数は、
・2016年は1,530件。
・2017年は1,378件。
・2018年は779件。
3年間の平均は1,229件です。
ソニーの発明創出指数は約0.67となりました。
※1229件×3人÷11万人×20年≒0.67
ソニー株式会社の競合企業として、株式会社日立製作所と三菱電機株式会社についても調べてみたところ、
・株式会社日立製作所の発明創出係数は約0.34
・三菱電機株式会社の発明創出係数は約1.67
でした。
発明創出指数は「少ない人数でたくさんの特許出願をすると高くなる」という単純な指標です。
発明創出指数は知財予算に影響されます。どんどん特許出願させる企業もあれば、特許出願のハードルが高い企業もあります。発明の質も考慮していません。
子会社の発明を親会社名義で出願することもありますし、子会社名義で出願することもあります。企業の特許管理方針も影響します。
発明創出指数が企業のイノベーション能力(先進性)を表すとまでは言えませんが、参考にはなると思います。
偏在する発明者
日本の研究開発者は、研究開発人生において約23件の特許出願を行う(発明創出指数=23)という結果は、思っていたよりも多いという印象です。
おそらく、一部の才能のある研究開発者(ハイパフォーマー)が大量の特許出願をしているのではないかと思います。
特許取得件数の世界記録保持者は、株式会社半導体エネルギー研究所の代表取締役である山崎舜平さんです。
日本だけで6,182件の特許出願を行っており、4,196件の特許権を取得しています(2020年7月現在)。
日本以外も含めると、合計11,000件以上の特許権を取得しているといいます。
半導体エネルギー研究所は、研究開発に特化し、特許の権利行使で利益を上げるという特殊なビジネスモデルの会社です。
調べてみたところ、半導体エネルギー研究所の発明創出指数は約98.55でした。
研究開発に特化している企業とはいえ、発明創出指数は驚異的な数値でした。
発明生産性が高い人は、発明をするコツをつかんでいるようです。
たくさん発明をするうちにコツをつかみ、コツをつかむことでまた発明が増えるというスパイラルになっています。
参考:「発明の完成度」