特許出願できる時期は、発明が完成してからその発明を公表するまでの期間です。
発明が完成していなければ特許出願することはできません。
しかし、発明の完成について、特許法はなにも規定していません。
判例などを参照すると、発明の完成とは、
・発明の技術分野において通常の知識を有する者が、
・実施できる程度に、
・発明の構成を具体的かつ客観的に示すことができる段階にあること。
と想定されているようです。
つまり、第三者でも実施できる程度に具体的な説明をできればよい、ということです。
着想から現実へ
発明の完成度を3段階にわけてみます。
・モノの段階(最終段階)
発明を応用した製品あるいは試作品(モノ)が完成している段階です。
発明はモノとして具現化しているため、発明の実現可能性は確認されています。
・企画の段階(中間段階)
製品(モノ)はありません。
企画書、仕様書、営業資料、設計図などがあります。
製品はありませんが、文書情報によって製品のイメージはある程度はっきりしています。
・着想の段階(初期段階)
「こんなものをつくりたい」「こんなことができるのではないか」という気づきの段階です。
実際にどうやってつくるのかについては詳細な考察はなされていません。
発明の打ち合わせで発明完成への道筋をつくりながら、細部については弁理士が考えることもあります。
発明の完成度によって、特許出願に求められる書き方も変わります。
完成度の高い発明
完成度の高い発明とは具体的な発明です。
製品イメージに忠実な記載を求められやすいです。
製品発表が近いことも多いです。
知財部が、新製品の発表寸前に新製品企画の存在を察知し、大急ぎで特許出願することもあります。
完成度の低い発明
完成度の低い発明とは具体的ではない発明です。
したがって、特許出願をするためには、実施できる程度の具体性を考える必要があります。
製品のイメージはモヤモヤしています。
着想ポイントを基点として製品イメージを具体化していきます(深化)。
また、発明の応用可能性を広げるような記載も求められます(拡張)。
想像力で発明に深みと広がりをもたせることで着想に肉付けをします。
特に、ソフトウェア発明の多くは、実験や試作をしなくても、論理的に説明できる程度の具体性を考えることは可能です。
知財部と弁理士に任される部分が大きいため特許品質はバラツキやすくなりますが、発明の可能性を出願段階でしっかりと練るゆえに強力な特許権が生まれることも多いです。
新しいテーマの発明
新しいテーマについて新しい開発プロジェクトが始まるとき、たくさんの完成度の低い発明(具体的ではない発明)が出てきます。
製品のセールスポイントになりそうなアイディアをどんどん特許出願して、1,2年のうちに新テーマに関する特許防衛網(特許ポートフォリオ)を構築するのが理想です。
開発プロジェクトを進めるのと並行して、あるいは、開発プロジェクトよりも少し先行させて特許ポートフォリオをつくることで、将来、他社がこの新テーマに後追い参入するのを防止します。
たとえば、「AIで就職を支援する」というテーマが与えられたときには「就職実績データを分析することで、どんな能力や資格をもっている人が就職に強いのか判明するのではないか」「どんな能力や資格が就職の役に立つのか就職希望者に提案できるのではないか」などいろいろな着想(気づきと思いつき)が出てきます。
次に、こういった着想をどうやれば実現できそうか考え、「AIで就職を支援する」というテーマに関わるセールスポイントを特許ポートフォリオで固めていきます。
たとえ、開発プロジェクトに失敗したとしても特許ポートフォリオは残ります。
新しいテーマ、特に、野心的なテーマからは質の高いアイディアがたくさん出てきます。
数年後に同じテーマが再検討されることもあります。そのときには、このときの特許ポートフォリオが財産になります。
開発プロジェクトの成否と特許ポートフォリオの価値は、本来、同一視すべきものではありません。
定番製品の改良
既存製品をバージョンアップするとき、あるいは、既存製品の系譜に連なる新製品を開発するとき、たくさんの完成度の高い発明(具体的な発明)が出てきます。
たとえば、ある既存製品X(定番製品)の性能や利便性を向上させるための改良発明が出てきたとします。
改良発明は、製品Xを前提として成立する発明です。
弁理士は、製品Xをめぐる事業環境、技術常識、技術史、技術成熟度、競合企業・・・などの技術常識を勉強する必要があります。
技術常識さえわかってくれば技術についての土地勘みたいなものがつくので、以後、製品Xのシリーズにおいて、どこがどのくらい改良されたのかを理解しやすくなります。
小さな改良を続けていくタイプの技術開発であるため、大量かつ継続的な特許出願になりやすいです。
技術開発を続けつつ、継続的に特許出願をすることで特許ポートフォリオをメンテナンスします。
製品Xの改良発明により「・・・できるのは当社だけ」という独自の付加価値ポイントをつくることで、製品Xの陳腐化やコモディティ化(利益率の低下)を防ぐことが目的となります。
参考:「発明の信憑性」「うらやましがられる特許権」