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ビジネスモデル特許とは何か

三谷拓也 | 2020/08/14

ビジネスモデルにエッジはあるか


どんな企業でもビジネスモデルをもっています。
そのビジネスモデルに特有性(エッジ)があれば、ビジネスモデル特許で守ることができるかもしれません。

ビジネスモデルとは収益を生み出す仕組みです。
集客の方法、コストを抑制する方法、リピート率を向上させる方法、などです。

特有性とは他社が達成できない価値を生み出す理由です。
他社が達成できない価値を生み出す理由をビジネスモデル特許でガードしてしまえば、ビジネスは盤石です。


ビジネスモデル特許は、伝統的なモノを守る特許権とは異なり、サービスを守る特許権です。
サービスを特許権にするという発想は、特許の歴史から見ればごく最近の概念ですが、これは大きな意味を持っています。

特許法の拡大


研究開発型企業に限らず、小売業や金融業、教育産業などのサービス業もビジネスモデルをもっているはずです。
ビジネスモデル特許により、研究開発型企業以外にも特許法の門戸が開放されました。
技術知識がなくてもビジネスモデルを発明することはできるからです。
通常、ビジネスモデルはチャレンジングな技術開発を必要とすることはなく、既存技術の応用により実現されます。
応用の妙に特許性があると言えます。応用の妙こそがビジネスモデルだったりします。
経営者や営業担当者、マーケティング担当者でもビジネスモデル特許の発明者になることができます。

ビジネスモデルを真似されることや潰されることは事業の生死に直結しかねないので、ビジネスモデル特許は強烈な武器や脅威になることがあります。

ビジネスモデルはソフトウェアで駆動されているか


ビジネスモデル特許を取得するためには、ビジネスモデルを成立させるためにソフトウェアがそれなりに重要な役割を果たしていないといけません。
特許法は、あくまでも技術(ソフトウェアなど)の発展を推進する法律だからです。
ビジネスモデル特許は、ソフトウェア特許の支流ですが、大きな支流でもあります。

ソフトウェアによってビジネスモデルが駆動されていることが重要です。

ソフトウェア(技術)がないとこのビジネスモデル(サービスの仕組み)はとても成立しそうもない、と思われるように発明が表現されているか否かによって、同じ発明でも特許になったり、ならなかったりします。

ビジネスモデルのキーポイントは何か


ビジネスモデル特許を狙うときには、ビジネスモデルの全体像を理解しつつ、そこを独占されたらビジネスモデルを真似することが不可能または困難になるようなキーポイント(急所)を洗い出します。

ビジネスモデル全体を漫然と権利請求するよりも、キーポイントを1つ1つきちんと抑えていく方が強力に作用します。
ビジネスモデル全体を守っているように見えるけれども簡単に侵害回避できるビジネスモデル特許はたくさんあります。

たとえば、配車サービスのUberの場合、
・位置情報に基づいて、顧客を迎えにいく車を選ぶ
・顧客にとってわかりやすい予約の方法
・顧客は、お迎えについてのこだわり(好みの車など)を指定できる
・顧客の利用料金をUberと運転手に分配する
・顧客がドライバーを評価する
・ドライバーは事前に乗車拒否できる
などの要素によりビジネスが構成されています。

これらの中から特許レベルに持って行けそうで、サービスにとって不可欠または必要性の高いキーポイントを選びます。
選んだキーポイントを守れるように特許権をデザインします。
たくさんのキーポイントをたくさんの特許権で守れば、どこか1つでもキーポイントを侵されると特許侵害として排除できます。

ビジネスの要所要所に地雷をばらまいて近づけないようにしておくようなイメージです。
別のサービスであるUber Eatsのキーポイントまでカバーできる特許権になっていれば、更に効果的です。

モノの特許でも、モノの複数の特徴(キーポイント)をピックアップして特許で固めていくので基本は同じです。ただし、ビジネスはたくさんの人と関わる大きな仕組みであり、全体像が見えにくいので、モノ以上に俯瞰的検討が必要となります。

まとめると、ビジネスモデルにエッジがあるかを検討し、エッジがあればキーポイントを抽出します。
キーポイントを特許権で固めれば、ビジネスモデルを事実上独占できます。
これらの特許権は、類似のビジネスモデル(新規ビジネス)にも応用できるかもしれません。

ソフトウェアは判断しているか


ビジネスモデルがどんなにユニークでも、ソフトウェアを使っているというだけで特許権をとれるほど甘くはありません。
いくらソフトウェアを使っていても、人為的取り決め(「こういう風に処理するものとする」という手順や規則)にすぎない、と見なされると拒絶されます。
このあたりの判断は微妙で、審査基準はあるのですが、審査官によっても感覚がかなり違うようです。

経験則として、ソフトウェアが判断している、または、人間の判断を助けているという雰囲気が請求項表現に含まれているほど特許査定に導きやすいようです。

最近はAI(人工知能)に支えられるビジネスモデルが多くなっています。
AI特許のように見えて、その実体はビジネスモデル特許であるというケースは非常に多いです。
AIは、まさに、人間の代わりに判断したり、人間の判断を助ける道具であるため、今後、AI駆動型ともいうべきビジネスモデル特許が増えていくはずです。

実際には、請求項が「ソフトウェアによる判断」を構成要件として含むと侵害特定しづらくなったり侵害回避しやすくなるという副作用が生じかねないので、特許査定の可能性と侵害特定の容易性のバランスをみながら妥当な表現を探すことになります。

参考:「一気に眺める「ソフトウェア」」、「野口五郎さんの特許戦略