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発明の仕分け方について

三谷拓也 | 2023/01/07

発明はオンリーワン


日々接する発明はさまざまですが、似たものはあっても同じものはありません。
発明とは、1つ1つがオンリーワンであり、オリジナルなものです。
そういう点では、音楽や美術品と似ています。時代によって評価が変わるという点でも似ています。
発明に優劣をつけるのは本来難しいことです。


重要な発明


たくさんの発明の中でも、特許出願の依頼段階から重要と指定される発明もあります。
発明提案書に発明者本人、上司、知財部の評価が書いてあることもありますし、口頭で「これは重要発明です」と言われることもあります。

新製品の目玉技術だから、事業部長が重要だと思っているから、社内で評判がいいから、メタバースやブロックチェーンのように技術のトレンドに乗っているから、社長の発明だから・・・など、重要と評価される理由はさまざまです。

技術の潮流と発明のタイプ


発明の背景には、技術の潮流(積み重ね)があります。
さまざまな人たちの発明がヒントや刺戟になって新しい発明が生まれ、それがまた新たな発明へのヒントや刺戟になります。
発明は突然変異的に生まれるものではなく、みんなの知見というデータベースを土壌として生まれます。
したがって、技術の潮流から発明の立ち位置を見ることはとても有効であり、このような考え方から発明を4種類に大別してみました。
 
・タイプT1
たとえば、自転車という技術分野であれば、ブレーキやペダルのような「それがなければ自転車として成立しない」という核心的な存在です。
当該技術分野において、必須といえるタイプの発明です。
・タイプT2
当該技術分野において、実質的に必須といえるタイプの発明です。
自転車ならライトや自転車鍵のようなものです。
ライトがなくても自転車は動きますが、自転車にライトを付けることは実質的に必須といえます。なくてもいいけれどもなければ不都合という存在です。
現在では、自転車にライトを搭載することは道路交通法により義務づけられていますのでもはやライトはタイプT1といってもいいのですが、最初の自転車にはライトはありませんでした。
・タイプT3
当該技術分野において、あったら好ましいタイプの発明です。
自転車でいえば、スマホホルダーのようなものです。多くの人が「自転車の付加価値」と認識してくれそうな発明、たくさんの製品の中から選んでもらう理由(セールスポイント)になりそうな発明です。
・タイプT4
当該技術分野において、あれば嬉しい人もいるのかもしれない(いないかもしれない)、というタイプの発明です。

発明のタイプによって、特許の性質も変わってきます。

新しい技術分野を切り開くような発明もあります。
たとえば、まったく新しいライフスタイルを提案し、そのライフスタイルのための発明をすることがあります。
市場がないところに市場を創出しようとするような野心的な発明のことをパイオニア発明とよぶことにします。

市場の創出


パイオニア発明は、タイプT1の発明でもあることが多いです。
パイオニア発明から基本特許を取得できたとしても、基本特許が無効化されてしまうリスクは残ります。
絶対的な基本特許だと思っていたのに弱点(スキ)があった、ということもあります。自社が思ってもみなかった特許回避案を他社が考えてくることもあります。

このようなリスクを最小化するために、基本特許を取得したあとも、タイプT1、T2、T3、T4のような発明によって改良特許(周辺特許)を取得します。
基本特許という「核心」を衛星のような多数の改良特許でガチガチに固めることで特許網を作ります。
基本特許と改良特許のコンビネーションにより、新規事業の参入障壁は鉄壁となります。

パイオニア発明によって新規事業(新市場)が順調に育てばいいのですが、市場創出に失敗すると基本特許は機能しなくなります。
基本特許で守るはずの市場が存在しないのなら、守り甲斐がありません。

こういう場合、基本特許を開放(使用許可)することで他社の市場参入を促すという方法もあります。基本特許が邪魔しなければ、他社も市場に参入しやすくなります。たくさんの会社が参入してくれば市場が活性化します。
一方、タイプT2、T3などの発明については引き続き改良特許で独占することで、市場における指導的立場を確保します。
市場の完全独占を目指すのではなく、新市場の利益を他社と分かち合いつつも、重要な付加価値となる部分を独占することで、自社の収益を最大化する戦略です。
こうなってくると、基本特許よりもむしろ改良特許の方が重要になってくる可能性があります。

更に、事業環境によっては、タイプT4の発明が、タイプT3やタイプT2に変化することもあります。
たとえば、オンラインゲームのガチャは、当初はタイプT4の発明だったのかもしれませんが、いまとなってはタイプT1,T2に近い発明です。
出願時にはその価値について懐疑的だった発明が数年後には重要特許に化けることも珍しいことではありません。

技術の潮流を意識すると、発明の理解が深くなります。

参考:「基本特許を取られても逆転は可能」「特許の歴史