これからIoT(Internet of Things:モノのインターネット)の時代になるので、インターネットで連結された複数の装置によって構成されるシステムの発明(システム発明)が増えつづけることは確実です。
インターネットは超国家的であるため、システムは国境を超えることがあります。
一方、特許権は国家単位で付与されます。世界中で通用する特許はありません。
この両者の違いにより、システムに関する特許権には不都合が生じることがあります。
システム特許
一例として、ユーザからデータD1の入力を受け付ける入力機能F1,データD1に特殊なデータ処理を施すことによりデータD2を生成する処理機能F2,データD2を出力する出力機能F3、の3機能を備えるシステムS1を想定します。
単一の装置(スタンドアローン)により3機能を提供してもよいですし、複数の装置により3機能を分担することもできます。
たとえば、クライアント(パソコンやスマートフォンなど)により入力機能F1と出力機能F3を提供し、サーバにより処理機能F3を提供してもよいです。
サーバとクライアントを含むシステムを想定する場合、この発明は、
・F1、F2、F3を備えるシステム。
・F1、F3を備えるクライアントと、F2を備えるサーバ、を含むシステム。
と表現できます。
以下、サーバとクライアントのように、複数の装置によって提供される複数の機能をまとめて表現した特許権のことをシステム特許とよぶことにします。
サーバ特許
他社が、処理機能F2を備えるサーバを日本に設置し、入力機能F1と出力機能F3を備えるクライアントをアメリカに設置したとき、上述のシステム特許(日本特許)では特許侵害を問えなくなります。
日本にあるサーバは処理機能F2しか担っておらず、入力機能F1と出力機能F3はアメリカ(日本の外)にあるからです。
※間接侵害を問える可能性はありますが、ややこしいので本稿では直接侵害の存否を前提として話をします。
こういう状況が想定されるときには、システム特許だけでなく、
・F2を備えるサーバ。
というサーバ特許も作っておけば便利です。
処理機能F2を備えるサーバは少なくとも日本にあるので、サーバ特許の特許侵害は成立します。
サーバはシステムの基幹を担うことが多いため、サーバ特許があれば被疑システムの核心を叩けます。
クライアント特許
更に、
・F1,F3を備えるクライアント。
というクライアント特許も想定可能です。
他社が、処理機能F2を備えるサーバをシンガポールに設置し、入力機能F1と出力機能F3を備えるクライアントを日本に設置したとき、サーバ特許(F2)やシステム特許(F1,F2,F3)では特許侵害を問うことができません。
こういう場合でも、入力機能F1と出力機能F3を備えるクライアントは少なくとも日本にあるので、クライアント特許の特許侵害が成立します。
一般的には、クライアント特許は、サーバ特許よりも特許侵害を見つけやすいという長所があります。
他社(侵害者)が運営するサーバよりも、クライアントの方が動作確認(侵害確認)をしやすいためです。
システム構成の多様性
もう少し複雑な例として、入力機能F1,処理機能F2A,処理機能F2B,出力機能F3の4機能を備えるシステムS2を想定します。
発明者は、クライアントが入力機能F1と出力機能F3を備え、サーバが処理機能F2A,F2Bを備えるというイメージを持っているとします。
しかし、クライアントが入力機能F1と出力機能F3だけでなく、処理機能F2Aも備えることも可能かもしれません。
最近はスマートフォンでも高機能なので、処理負荷の大きな機能であっても、サーバではなくクライアントで実行できる可能性があります。
したがって、システムS2の場合、
・F1,F2A,F2B,F3を備えるシステム。
・F1,F3を備えるクライアントと、F2A,F2Bを備えるサーバ、を含むシステム。
・F1,F2A,F3を備えるクライアントと、F2Bを備えるサーバ、を含むシステム。
というシステム特許のほか、
・F2A,F2Bを備えるサーバ。
・F2Bを備えるサーバ。
というサーバ特許や、
・F1,F3を備えるクライアント。
・F1,F2A,F3を備えるクライアント。
というクライアント特許も検討対象となります。
更に、機能F2Aと機能F2Bを単一のサーバで実現するのではなく、複数のサーバで実現することもありえますので、
・F1,F3を備えるクライアントと、F2Aを備える第1サーバと、F2Bを備える第2サーバ、を含むシステム。
・F2Aを備えるサーバ。
も考えられます。
システム発明は本当に難しい
システム発明の超国家的な性質と特許法の国家主義的な性質の矛盾を考慮せざるを得ないため、システム発明に関する特許権の取り方には特有の難しさがあります。
システム発明の場合、システムがサービスを提供する上で、最低限必要な機能(モジュール)を選びます。
次に、これらの機能を、サーバが担うべきもの、クライアントが担うべきもの、サーバとクライアントのどちらでも担えるもの、サーバとクライアント以外の第3の装置でも担えるもの、に分類します。
そのうえで、サーバ、クライアント、サーバとクライアント以外の第3の装置など、これらの機能の全部または一部を担う可能性のある装置を想定します。
いろいろなパターンを検討しつつ、特許になる可能性があり、かつ、権利としても実効性のありそうな表現を選びます。
このほかには、機能の切り分け方や、機能定義の表現方法(抽象度など)を変えることで同じ発明であっても別の表現ができないか考えます。検討次第では、1件の特許権でも数件分、数十件分の価値をもたせることができます。
特許権を取得できればよしとするだけではなく、使える特許権、使いやすい特許権にするという観点からの検討も必要です。
システム特許は弱点(権利の抜け穴)をつくりやすく、特許法の課題として今後クローズアップされてくるかもしれません。
参考:「一気に眺める「ソフトウェア」」「外国出願:どの国に出願すべきか」。