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特許を取ったのに特許侵害になる理由

三谷拓也 | 2026/10/04
「この製品については特許を取得しているので、他社の特許を侵害することはない」

こういう理解は正しくありません。

特許を取得した製品なのに、他社特許を侵害しているので、実施(製造・販売)できないということはありえます。

特許取得は、自由に製造・販売できることの保証ではない


特許は、権利範囲に含まれている発明を自由に実施できる権利という意味ではありません。
特許は、権利範囲に含まれている発明を他人が無断で実施することを排除する権利です。
特許は「排除する権利」ですが「実施する権利」とは言えません。


複数の会社が持っている複数の特許の権利範囲が重なると、自社特許によって他社を止めることはできるが、他社特許によって自社も止められるという複雑な状況が発生します。
※特許によって他社の事業活動にどのようなルールを設けられるのかについてはこちらでも解説しています。
 

改良特許を取っても、基本特許は残る


簡単な例として、2つの会社X、Yが、同一分野にて技術開発をして関連特許を次々に取得したとします。
最初に、X社が基本技術Aを開発し、特許P1を取得しました。
次に、Y社が基本技術Aに改良Bを加え、発明(A+B)について特許P2を取得しました。
特許P1の権利範囲には(A+B)も含まれ、Y社はX社から許諾を受けていないものとします。

・X社/特許P1/A
・Y社/特許P2/A+B

A、Bは、説明のために単純化した技術上の構成です。
たとえば、Aは基本的な搬送装置、Bが搬送状態を検知する機構、といったイメージです。
特許P1,P2の順に出願され、どちらの特許も有効に存続しているとします。

特許P1は「発明Aに関して排除する権利」ですが、排除対象となるのは発明Aだけを備える製品という意味ではありません。
発明(A+B)を採用したY社製品は、発明A(特許P1)を含んでいるので、特許P1の侵害になります。つまり、X社の基本特許P1は、製品(A)だけでなく、製品(A+B)も排除できます。
改良したからといって、基本特許P1の権利範囲から外れるわけではありません。
 

Y社は、自社の特許を持っていても実施できない


製品(A)よりも製品(A+B)の方が高性能です。
しかし、Y社は、X社の基本特許P1があるので、X社製品(A)よりも優れている自社製品(A+B)を製造・販売できません。

Y社製品(A+B)を製造・販売するためには、X社に頼んで特許P1を使う許可(実施許諾)をもらう必要があります。

優れた改良を加えたとしても、土台となる基本発明の特許(基本特許)がなくなるわけではありません。特許法は、基本発明と改良発明のそれぞれを保護します。

他人の特許発明を利用する関係にある発明は「利用発明」とよばれます。Y社の改良発明(A+B)は、X社の基本発明Aの利用発明です。
 

実施できない発明に、なぜ特許が認められるのか


Y社の発明(A+B)は、X社から実施許諾を得なければ使えない発明です。
特許庁は、発明が特許の要件を満たすかを審査しますが、他社特許を侵害せずに製造・販売できると保証するわけではありません。

X社の基本発明Aに独自の改良Bを加えたことで、それまで解決できなかった問題が解決され、しかも、その工夫が従来技術から容易に考えられるものではなければ、特許として認められる可能性はあります。
特許庁が認めたのは、あくまで「A+B」という発明の特許性です。その発明を使った製品が、他社の特許を侵害しないことまで保証したわけではありません。

改良特許は、他社との交渉に使える


自社で自由に実施できない改良特許にも意味はあります。

X社は、自社製品(A)に改良Bを追加した製品(A+B)を製造・販売するためには、Y社から特許P2について許諾を受ける必要があります。基本技術Aの特許P1を持っていても、Y社の改良特許P2まで自由に使えるわけではありません。

Y社の改良Bが製品の性能や使い勝手を大きく向上させるなら、X社は、その改良を採用したくなるかもしれません。
X社が改良Bを採用したいと考えれば、互いの特許を使えるようにする交渉が考えられます。このように、互いの特許の実施を認める契約を「クロスライセンス」といいます。

改良特許は、基本特許を持つ会社との交渉材料になります。

権利範囲が広い基本特許は、多くの製品に影響を及ぼします。一方、範囲が狭い改良特許でも、市場で求められる機能を押さえていれば、強い交渉材料になります。権利の広さに加えて、その技術が事業上どれだけ必要とされるかも重要なポイントになります。
 

時間がたつと、先行特許による制約がなくなる


改良特許を取得するもう一つの意味は、先行する特許が消滅した後にあります。
特許権は永久に続くものではありません。日本では、存続期間は原則として出願日から20年です。

X社の特許P1が期間満了で消滅すると、Y社は、特許P1の制約から解放され、製品(A+B)を自由に製造・販売できるようになります。特許P2が残っていれば、Y社は製品(A+B)を独占的に製造・販売できます。

邪魔になっていた基本特許が期限切れになれば、改良特許の存在価値は高まります。
 

特許取得と、他社特許の調査は別に考える


技術は、既存の技術の上に、新しい工夫を加えながら発展していきます。
改良を続けていくことで、多数の特許が積み重なっていきます。

製品開発をするときには、「自社技術のどこを特許にできるか」と「自社製品に誰の特許が関係するか」を別々に確認する必要があります。
いいかえれば、「攻め」と「守り」の両面を意識します。

出願前の調査で自社の発明に似た発明が見つからなかったとしても、製品の土台となる技術の特許が残っている可能性はあります。

他社特許が問題になりそうなら、製品設計を変更するなどの対策を施します。
製品仕様が固まり、大きな投資をした後では、設計変更しづらくなります。
製品を開発するときには、危険な特許がないかを常に意識しておくことが大切です。
※自社製品が他社特許を侵害するかを検討する具体的な手順についてはこちらで解説しています。