では、特許の世界で存在感を発揮している大学はどこなのでしょうか?
医薬品、新素材、半導体、AI、ロボットなど、大学ではさまざまな研究が行われています。
研究から新技術が生まれれば、特許出願することがあります。
日本の大学を対象にして、特許出願数、保有特許数、国際出願数、US特許数を調べてみました。
特許数=研究力×知財意識×予算
大学の特許数には、
特許数=研究力×知財意識×予算
という関係があると思われます。
研究力がなければ発明は生まれません。
研究者が多く、研究レベルが高く、研究活動が活発な大学ほど、特許の「種」も多くなります。
研究成果が出たとき「論文を書いて終わり」にするのではなく、「特許にできないか」と考える知財意識も必要です。
お金も必要です。
出願費用だけでなく、特許になった後も権利を維持するための費用がかかります。外国特許も取ろうとすれば、さらに多くの費用が必要です。
大学の特許ランキングは研究力を示唆していますが、これを単純な「研究力ランキング」とみなすことはできません。
研究力があり、研究成果を特許にしようという意識があり、さらに知財予算の豊富な大学ほど、特許は多くなります。
大学の特許出願数ランキング
最初のグラフは、2020年1月から2025年1月までの5年間の特許出願数(国内)を集計したものです。

東海国立大学機構は名古屋大学と岐阜大学を含みます。また、東京科学大学は東京工業大学と東京医科歯科大学が統合して誕生した大学なので、実質的に2校分を含んでいます。
東京大学が頭一つ抜けています。
これに大阪大学、東北大学、東海国立大学機構、東京科学大学、京都大学、九州大学、北海道大学と続きます。旧帝大を中心とする国立大学が非常に強いことも分かります。
私立大学では慶應義塾大学、東京理科大学、早稲田大学などが上位に入っていますが、全体として見ると国立大学の存在感が目立ちます。
「出願数」と「保有特許数」は違う
次のグラフは、各大学が2026年8月時点で有効に保有している特許数を集計したものです。

保有特許数から見ると、東京大学、東北大学、大阪大学、東京科学大学の4大学がずば抜けています。
「特許出願数ランキング」と「保有特許数ランキング」を見比べると各大学の特徴がわかります。
たとえば、東北大学は特許出願数では3位でしたが、保有特許数では2位です。東北大学は出願数のわりに保有特許が多い大学です。
逆に、東海国立大学機構(名古屋大学と岐阜大学)は特許出願数では4位ですが、保有特許数では7位です。出願数のわりには保有特許が少ないといえます。
「出願すること」と「保有すること」は別です。
出願しても特許になるとは限りませんし、出願後に権利化を断念する場合もあります。
特許を捨てることもありますし、誰かに売却することもあります。
特許には維持費用がかかります。使う予定もなく、ライセンス収入も期待できない特許は負債になることがあります。
したがって、保有特許数が少ないから知財活動が弱いとも言えません。
「使えそうにない特許は早めに捨てる」ことも大事です。
一方で、見切るのが早すぎたために収益機会を失うこともあります。
「捨てる」ことにはリスクもあります。
海外でも特許を取ろうとしている大学は?
日本で取得した特許は、日本国内でしか通用しません。
外国でも発明を保護したければ、外国で特許を取得する必要があります。そのために利用される制度がPCT(特許協力条約)に基づく国際出願です。
次のグラフは、2020年1月から2026年8月までに公開された国際出願(PCT出願)を集計したものです。

国内の特許出願数ランキングと比べてみると興味深い違いがあります。
特に目につくのが京都大学です。
京都大学は国内出願数では6位ですが、国際出願数では4位。京都大学は、積極的に外国での権利取得を考えていることがうかがえます。
一方、東海国立大学機構や東京科学大学は、国内出願数に比べると国際出願数が少ない。
京都大学は比較的外国重視、東海国立大学機構と東京科学大学は比較的国内重視の傾向が読み取れます。
US特許数からも見える大学の海外志向
最後は、各大学のUS特許数(米国特許数)です。
PCT出願は国際的な特許取得に向けた途中段階ですが、US特許は実際に米国で成立した特許です。このグラフでは、2020年1月から2026年8月までに登録されたUS特許について集計しています。

米国は巨大市場を持ち、大学発の研究成果が事業化されることも多い国です。そのため、どの程度US特許を取得しているのかを見ることによって、大学の海外知財に対する姿勢を別の角度から見ることができます。
4種類のランキングを見ると、同じ大学でも順位は変わります。
「特許ランキング」といっても、何を基準にするかによって評価は変わります。
なお同じ期間を対象として調べてみると、カリフォルニア大学は3,965件のUS特許を獲得していました。ただし、カリフォルニア大学は複数の大学から構成される公立大学群なので、単独の大学と比較するのは適切ではないかもしれません。
MITは2,258件、スタンフォード大学は1,373件、ハーバード大学は1,166件となっています。
特許は「資産」になっているか
特許を取った後にどうするのかという問題もあります。
大学が特許を取得する目的は、研究成果を企業にライセンスしたり、大学発ベンチャーで利用したりして、研究成果を社会に還元することです。
特許が事業化されれば大学は収益を得られます。
令和4年度の特許ライセンス収入(年間)は、京都大学が約11.2億円、東京大学が約6.1億円、大阪大学が約4.1億円、東北大学が約2.1億円、北海道大学が約1.8億円でした(金沢大学の調査報告に基づく)。
「特許で稼ぐ」という観点からみれば京都大学は際立っています。これはiPS細胞関連技術の寄与が大きいと言われています。
一方、アメリカの大学の場合、年平均でみるとノースウェスタン大学が1.77億ドル(約280億円)、カーネギーメロン大学が約1.63億ドル(約261億円)、スタンフォード大学が約7350万ドル(約118億円)となっています。
アメリカの大学は、日本の大学とは桁違いの規模で特許収益を得ています。
日本と米国では統計の集計対象や定義が必ずしも同一ではないため、単純比較はできません。それでも、収益規模に大きな差があることは確かです。
特許の収益化までには、
研究で成果を出す→ 特許にする→企業に使ってもらう → 収益化する
という流れがあります。
「特許を取る能力」と「特許を資産化する能力」は別のものです。
なぜ、これほどの差が生じるのでしょうか。
アメリカには大学の研究成果を事業化しやすい風土があり、大学自身も特許のマネタイズに慣れていると考えられます。また、収益性の高い特許を生み出す力に差があるのかもしれません。もちろん、研究力、知財意識、知財に投入できる予算規模の違いも影響していると思われます。
また、日本では、特許による収益が研究者や研究室に十分に還元されず、研究者にとって特許取得のインセンティブになりにくい場合がある、という指摘もされています。
日本の大学にとって、特許をどのように社会実装し、どのように収益につなげているかを考えることが課題となります。
そのためには、特許を売り込む力を高めることが重要であり、企業が使いたくなる特許を作る能力も必要です。
日本の大学が特許で稼ぐためには、出願数を増やすだけでは不十分であり、「何を特許にするか」と「その特許をどう使ってもらうか」の両方を考えることが重要です。
価値のある研究成果を見つけ、企業につなぎ、事業化する仕組みをつくる必要があります。
特許収入=特許の質×事業化力×営業力
といえるかもしれません。
特許数は研究力だけを表す数字ではありません。研究成果を知的財産として守り、社会で活用しようとする大学の姿勢も映し出しています。
大学ランキングというと、偏差値や就職率、研究論文などが注目されがちですが、特許を調べれば大学のもうひとつの側面が見えてきます。
参考:「都道府県別の特許出願ランキング」「今さら聞きづらい、論文と特許は何が違う?」