ページトップへ

Language: JA | EN

ビジネスモデル特許は何で決まるのか?

三谷拓也 | 2026/08/06
AI・DX時代には、技術だけでなく、ビジネスモデルが競争力を左右する場面が増えています。しかし、ビジネスモデルがそのまま特許になるわけではありません。
 

ビジネスモデル特許とは?


ビジネスモデルとは、商品やサービスを提供して利益を生み出す仕組みのことです。

たとえば、
・サブスクリプション(月額課金)
・シェアリングサービス
・ポイント還元の仕組み
・AIを使った業務効率化サービス
などは「ビジネスモデル」の一例です。

ビジネスモデル特許とは、ビジネスの方法をソフトウェアによって実現する発明について取得される特許の通称です。「ビジネスモデル特許」は、法律で定義された正式な特許の種類というわけではありません。


ビジネスモデルは、3つのタイプに分類できます。
・タイプA:ソフトウェア技術をまったく利用しないビジネスモデル
・タイプB:ソフトウェア技術を利用しているが、技術的効果については判断が分かれるビジネスモデル
・タイプC:ソフトウェア技術を利用し、技術的効果も発生するビジネスモデル

タイプAのビジネスモデルは、「毎週水曜日だけ料金を半額にすることで集客力を高める」のような経営上の工夫です。タイプAは特許の対象にはなりません。特許は「技術」であることが前提です。
タイプBのビジネスモデルは、たとえば、AIを用いて保険料を算定する方法やECサイトの動的価格設定方法などが該当します。
タイプCのビジネスモデルは、ソフトウェア技術を利用した結果として、通信速度の向上や消費電力削減などの技術的効果が発生するアイデアです。タイプCは特許の対象になります。

問題はタイプBです。

タイプBについて特許を認めるかどうかは、国によって考え方が違います。

ビジネスモデル特許で重要な「技術的効果」とは?


ビジネスモデル特許のキーワードになるのが「技術的効果」です。

技術的効果としては、次のようなものがあります。
・処理速度が速くなる。
・通信効率が改善する。
・消費電力やメモリ使用量が減る。

安全性の向上、技術的プロセスの改善なども含まれますが「性能向上」が典型例です。

技術的効果とは、機械・電気・ソフトウェア分野の発明に共通する「技術らしい効果」であり、従来から特許法が保護してきた工学的な価値を意味します。

これに対して、
・利用者が使いやすくなる。
・AIによって業務が効率化される。
・社会課題を解決する。
・楽しく学べる。
といった効果は、利用者や企業活動、社会に価値をもたらすものの「技術的効果」とは評価されにくくなります。

ビジネスモデルが生み出す効果を「技術的効果」とみなせるか、みなせないか、というところが特許性判断のポイントになります。
※厳密に言えば、各国で判断枠組みは異なります。たとえば、欧州では「技術的性質(technical character)」や「技術的効果(technical effect)」が重視されますが、日本、米国、オーストラリアでは、それぞれ異なる法的枠組みによって特許対象性が判断されます。説明を簡単にするため、本稿では「技術的効果」を共通軸として説明しています(発明の効果についてはこちら)。
 

ビジネスモデル特許の判断は国によって違う


タイプBのビジネスモデル発明については、国によって対応が異なります。

日本、中国、台湾、韓国は比較的肯定的です。アメリカも一定の場合には認められますが、抽象的アイデアと判断されると特許にはなりません。一方、欧州、オーストラリア、ベトナムなどは慎重な立場です。

同じ国でも時期や請求項の記載内容によって結論は変わります。単純に肯定派/否定派と割り切れない面もあります。

このような違いが生じる背景には、ビジネスモデル特許に対する考え方の違いがあります。
 

ビジネスモデル特許が批判される理由


ビジネスモデル特許に対する批判論としては、以下のようなものがあります。

1.ビジネス自体の独占を許すのは影響が大きすぎる

特許は、技術の独占を認めるものです。
これに対してビジネスモデルの特許は、ビジネスそのものの独占を許すことになります。したがって、「ビジネスモデル特許は、社会への影響が大きすぎるのではないか」という懸念が出てきます。

政策論的観点からの批判といえます。

しかしながら、市場への影響が大きいのはビジネスモデル特許に限らず、基幹技術の特許でも同様です。
ある重要部品や基幹技術が特許で守られていれば、その技術を使えない競合企業は市場参入そのものが困難になります。

2.思いつきのようなビジネスモデルを守る必要があるのか

技術開発には時間も費用もかかります。
開発投資をした人を法的に保護しなければ、模倣者が有利となってしまいます。
特許制度は、開発投資を保護するための制度です。

これに対して「ビジネスモデルは単なる思いつきではないか」という意見があります。ビジネスモデルの案出時には、投資が発生していないという批判です。

経済学的観点からの批判といえます。

しかしながら、投資に関する問題はビジネスモデル特有のものではありません。
ソフトウェア発明は、試作品すら存在しないまったくのアイデア段階で出願されることは珍しくありません。
また、ビジネスモデルであっても、システム開発やマーケティング、クラウドサービスの契約などに相応の投資が必要です。

技術では研究開発や量産化に、ビジネスモデルではシステム開発や社会実装に投資が必要であり、単純に「ビジネスモデルだから投資が小さい」とはいえません。

3.ビジネスモデルは「技術」ではないから法目的に合わない

特許法は、技術を保護することを目的としています。
ビジネスモデルは「技術」とは言えないので、特許法の法目的に合わないのではないかという考え方です。

法理論的観点からの批判といえます。

技術とは、人間の知恵や経験を体系化し、再現可能な形で利用できるようにしたものと考えることができます。

肯定派は、タイプBのビジネスモデルについて、
「AIなどのソフトウェア技術を利用して社会課題を解決しているのだから、技術である」
と考えます。

否定派は、
「技術を利用しているだけでは不十分であり、性能向上のような技術的効果がなければ技術とは言えない」
と考えます。

しかし、現在のソフトウェア開発は、性能向上を目的とするものに限られません。
たとえば、
・直感的でわかりやすい操作を実現する。
・ユーザー体験(UX)を向上させる。
・意思決定を支援する。
・寄付金を集めやすくする。
・児童の自主学習を支援する。
・暗号通貨の流通を促進する。
のような「工学的」とは言えない価値が、現代においては非常に重視されています。

ビジネスモデル発明は、工学以外の価値を実現するシステムとして捉えることもできます。
ビジネスモデル発明は「新しい価値やライフスタイルを提案する発明」であり、「性能」のような既存の価値を高める発明とは異なります。
 

日本では特許、オーストラリアでは拒絶


ビジネスモデル発明は、国によって判断が分かれます。

たとえば、製造時の環境負荷も考慮してエコ製品のレンタル料を算出するビジネスモデル発明の特許出願をしたとき、日本とオーストラリアでは結論が分かれました。

この発明は、環境負荷の小さい製品ほどレンタル料を安く設定することで、エコ製品の普及を促し、社会全体の環境負荷低減に貢献しようとするものです。
日本では特許査定となりました。一方、オーストラリアでは、「技術上の問題ではなく運営上の問題を解決する発明である」として特許対象性が否定されました。

この発明は、製品の製造技術そのものを改善するものではなく、ビジネスの仕組みによって環境負荷低減を目指すところに特徴があります。
環境負荷低減に対するこのようなアプローチについて、日本とオーストラリアでは判断が分かれました。

タイプBのビジネスモデル発明では、新規性・進歩性以前に「特許対象として認められるのか」が問題になります。
 

ビジネスモデル特許とソフトウェア特許の境界


通常のソフトウェア技術とビジネスモデルとの境界も明確ではありません。
技術的なソフトウェア発明であっても、請求項の一部にサービス提供方法などのビジネスモデル的な特徴を含めることもあります。
ビジネスモデル発明でも、高度なAIやクラウド技術が中核になっていることは珍しくありません。

この境界線のあいまいさを整理するための基準となっているのが「技術的効果」です。技術的効果という基準には一定の明快さがあります。
一方で、現代の産業では、「性能向上」のような伝統的価値観以外の新機軸を作り出すことが求められています。

技術的効果、特に、工学的性能に価値観を限定する考え方には限界も弊害もあります。
一方で、このような歯止めをなくし、あらゆるビジネスアイデアを特許にしてしまうと、社会が混乱する懸念もあります。

ビジネスモデル特許に肯定的な国であっても、具体的な情報処理やシステム構成を請求項に追加するよう求められ、その結果として権利範囲が限定されることもあります。

AI・DX時代にはビジネスモデル特許が重要になる


ビジネスモデル発明についての考え方は国によって大きく異なります。
コンピュータによって具体化されていれば比較的柔軟に評価される国もあれば、発明がもたらす技術的な貢献を厳しく求める国もあります。また、同じ国であっても、請求項にどのような情報処理やシステム構成が記載されているかによって、結論が変わることがあります。

「技術的効果」という基準には、特許で守るべき技術と、自由な競争に委ねるべきビジネスアイデアとの境界を明確にする役割があります。
「性能が向上するものだけが技術」という考え方は、製造業中心だった時代には一定の合理性があったかもしれません。
しかし、AIやDXによってさまざまな体験価値が生み出される現在では、その前提自体が変わりつつあります。

AI・DX時代の知財戦略では、技術とビジネスを別々に捉えるのではなく、その組合せによって生まれる価値をどのように権利化するかが重要になります。ビジネスモデル特許は、新しい事業の競争優位を守るためのツールとして、これまで以上に検討する価値が高まっていくはずです。

参考:「発明の効果とは何か」「ビジネスモデルで特許を取るコツ