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都道府県別の特許出願ランキング

三谷拓也 | 2025/01/13

知財が集まる地域は発展しやすい?


「年収は住むところで決まる(The New Geography of Jobs):エンリコ・モレッティ(プレジデント社)」という本があります。
この本は、イノベーションと地域経済の関係を分析しています。

著者は、
・知識経済では繁栄が一部地域に集中しやすく、繁栄している都市はますます繁栄する。
・イノベーティブな企業も、イノベーションに熱心な都市に集まる傾向がある。
・創造性の持ち主がまじりあい、互いに学び合う機会が生まれてイノベーションは活性化し、生産性が向上する。
といいます。

「知財(知識)が集まる地域は発展しやすい」という説は日本にも当てはまるような気がします。


所得の高い地域は「稼ぐ力」が大きな地域です。
稼ぐ力を支えているのは、その地域が持っている「付加価値を生む力」です。
付加価値を生む力がある地域では、新しいアイディアや技術が生まれやすく、それが特許として保護されることも多くなるはずです。

したがって、所得の高い地域、いいかえれば、繁栄している地域は特許出願数も多いのではないかという推測が成り立ちます。

都道府県別の特許出願数


まず、都道府県別の特許出願数を調べてみました。以下は、1位から10位までのグラフです。


2020年から2024年の5年間に公開された特許出願を対象として集計しています。
ただし、集計の性質上、神奈川県在住の発明者でも、東京の企業に勤めていると「東京の特許出願」としてカウントされます。
東京を本社とする企業は多いので、上記のグラフでは東京は過大評価になっているかもしれませんが、東京都が圧倒的であることは間違いありません。

人口の多い都道府県ほど特許出願数ランキングでは有利となります。

そこで、特許出願数/都道府県人口を「1人あたり特許出願数」として算出し、「1人あたり特許出願数」をランキングすると下記のようになりました。


東京は人口も多いのですが、1人あたり特許出願数としても、ダントツの1位でした。
東京の特許出願の総数が多いのは人口が多いからというだけではなく、発明意欲・発明能力のある人材が集まっていることもその理由です。
 

特許と所得に関係はあるのか?


都道府県別の県民所得のランキングは下記の通りです。県民所得は、総務省が発表している令和3年度のデータに基づきます。


「1人あたりの特許出願数」の順位と「県民所得」の順位を対象として、スピアマンの順位相関係数を計算すると約0.79となりました。
スピアマンの順位相関係数の場合、一般的には0.3以上であれば「相関あり」とされますので、かなり強い相関があるといえます。
※スピアマンの順位相関係数とは、2つの変量(この場合「1人あたりの特許出願数」と「県民所得」)それぞれの順位について相互に関連性があるのかを調べるための指標です。相関係数の範囲は「-1~+1」で、1に近いほど相関が強いといえます。

特許出願数が多い都道府県ほど、県民所得も高い傾向にある、といえます。

愛媛や長野、京都のように、特許出願が多い割には県民所得が高くない都道府県がないわけではありませんが(発明の質の問題かもしれません)、全体としてみると「1人あたりの特許出願数」と「県民所得」には強い相関があるようです。

なお、特許出願数(総数)の順位と、県内総生産(県全体が生み出す付加価値)の順位について、スピアマンの順位相関係数を計算すると約0.86でした。

特許出願数と弁理士数の関係


特許出願の多い県には、発明育成ノウハウを有する知財関係者も多く集まっているのではないか、という推測も成り立ちます。
弁理士が都市部に偏っていることはよく知られています。
これは知財の仕事が都市部に偏っているからだと思います。

以下は、都道府県別の弁理士数のランキングです。


特許出願数の順位と、弁理士数の順位について、スピアマンの順位相関係数を求めると約0.94でした。
やはり、特許出願が多いところは弁理士も多く、特許出願が少ないところは弁理士も少ない、といえます。

知財が集まると豊かになる


特許出願が多い都道府県は、弁理士も多く、所得水準も高いということなので、弁理士を見かける地域は所得水準が高い、と言えるかもしれません。



発明の多い地域には、弁理士などの知財関係者が集まりやすくなります。
知財関係者が集まる地域には、発明の育成ノウハウも集まります。
こういう地域は、特許出願が多くなるので、知財関係者が更に集まりやすくなります。

発明はビジネスの種なので、発明が多いところではビジネスも育ちやすくなります。
ビジネスが育ちやすいところは資金も集まりやすくなりますし、ビジネスが育てば地域の所得水準が高くなるので人口も増えます。

知財が集まる地域は活性化し、地域が活性化すると知財が集まるというメカニズムがあるのかもしれません。

参考:「楽器の発明」「日本人の生涯平均発明件数