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特許原稿のチェック方法(3)

三谷拓也 | 2026/06/14
特許出願では、発明そのものだけでなく、特許明細書の書き方も重要です。
特許明細書は、発明の内容を詳しく説明するための文書です。

特許明細書では、次のような内容を説明します。
・どのような技術分野の発明なのか
・従来はどのような技術があったのか
・従来技術にはどのような課題があったのか
・どのように課題を解決したのか


特許原稿を確認するときには解決手段の説明に目が向きがちです。しかし、【背景技術】や【発明が解決しようとする課題】の記載にも注意が必要です。

これらの書き方によっては、進歩性を主張する上で不利になる可能性があります。
今回は、特許原稿をチェックするときのポイントとして、「従来技術の書き方」に注目します。
 

【背景技術】には「従来技術」を書く


【背景技術】では、従来技術を説明します。
発明は従来技術との相違点にあります。
この相違点が新規性や進歩性を主張する出発点になります。
特許を取得する上では、発明のレベルが高いほど、従来技術のレベルが低いほど有利です。

従来技術を適切に説明することで、発明の相違点は明確化されます。
一方で、従来技術の書き方を誤ると、本来は相違点として主張できたはずの内容が、相違点として認められにくくなることがあります。

発明者や出願人にとっては当たり前でも、世の中に公開されていなければ、「特許法上の従来技術」とは言えません。

「社内では前からやっていた」
「開発チームでは常識だった」
「発明者は以前から知っていた」
というだけの技術を「従来技術」として記載するのは危険です。

従来技術でないものまで従来技術であるかのように書いてしまうと、特許化のハードルを自ら上げてしまうことになります。

【発明が解決しようとする課題】では課題発見力を示す


【発明が解決しようとする課題】には、従来技術が抱えている課題を記載します。
発明の目的は、従来技術の課題を解決することです。
この項目では、発明がどのような課題を解決しようとしているのかを明確にします。

一般によく知られている課題であれば、
「従来技術には・・・という課題があった」
と書いても問題ありません。
しかし、一般にはまだ知られていない課題について同じように書いてしまうと、「従来からそのような課題があることは知られていた」と認めてしまうことになります。

未知の課題を解決するタイプの発明であれば、
「本発明者は、従来技術には・・・という課題が存在することを見出した(課題発見)」
「従来技術について・・・という観点からはあまり提案がなされていない(価値提案)」
のように、課題を発見・設定したことが伝わるように書きます。

発明は、
(1)課題を設定する。
(2)課題の解決方法を考える。
という2段階で成り立ちます。

誰も認識していなかった課題を発見したのであれば、その発見自体も進歩性を主張する重要ポイントになります。
 

「未知の課題」を「既知の課題」にしてはいけない


例として、プロセッサの冷却技術に関する発明を考えてみます。
プロセッサは動作中に発熱します。ファンやヒートシンクによってプロセッサの熱を逃がす技術はよく知られています。
発明者がプロセッサの熱分布を詳しく調べたところ、プロセッサ全体が均一に発熱しているのではなく、高温になりやすい部分となりにくい部分があることに気づいたとします。

この発見(気づき)に基づいて、
「高温部分だけを狙ってピンポイントで冷却する」
という発明を考えました。

この発明の価値は、ピンポイント冷却という解決手段だけではなく、「プロセッサの発熱には局所性がある」という気づきにもあります。
こういう場合、【発明が解決しようとする課題】で、
「プロセッサの発熱には局所性がある」
と既知事実のように書いてしまうと、気づきの価値が伝わらなくなります。

一方、「本発明者は、プロセッサ内部の熱分布に着目して検討した結果、プロセッサには局所的に高温化する領域が存在することを見出した」のように書いておけば、気づきの価値を主張できます。
気づきの価値を主張しておけば、「プロセッサの発熱に局所性がある」ことに同じように気づいている先行技術文献でなければ本発明の特許性を否定しづらくなります。

気づきに価値があれば、特許になる可能性は高まります。

プロセッサを局所冷却する手段の新しさだけでなく、プロセッサを局所冷却する必要性に気づいたところも主張しておきたいポイントです。
 

気づきの新しさを大切にする


特許明細書の導入部は、発明の文脈を決める重要な部分です。

発明を理解しやすくするためには、従来技術や課題を適切に説明しなければなりません。しかし一方で、特許性のハードルを自ら上げてしまうような記載は避ける必要があります。

特に注意すべきは、
・従来技術とは言えないものを従来技術であるかのように書いてしまうこと
・未知の課題を既知の課題であるかのように書いてしまうこと
です。

発明には必ず従来技術との相違点があります。

相違点には敢えてそのような相違点をつくる必要性(理由)があり、必要性にはそれを必要としている課題の認識があります。
誰も気づいていなかった課題を発見したのであれば、その気づき自体に価値があります。
課題に気づいたから相違点をつくるのであり、課題に気づいていなければ相違点をわざわざつくる理由がありません。
課題が本当にユニークであれば、認識された課題に基づいて生み出された相違点がわずかであっても、特許性を主張できます。


特許性は、
(1)課題のユニークさ
(2)課題の解決手段のユニークさ
によって評価されます。

発明は「解決手段」だけではありません。「何が問題なのか」に気づくこともまた発明です。

参考:「特許原稿のチェック方法(2)」「発明の3つの才能