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特許原稿のチェック方法(2)

三谷拓也 | 2024/06/30
特許明細書には、重要度の高い部分(以下、「主部」とよぶ)と、重要度の低い部分(以下、「副部」とよぶ)があります。

主部は、十分かつ厳密に書く必要があります。

特許明細書(原稿)をチェックするときには、まず、弁理士に伝えたことがすべて書かれているかをチェックします。
そのうえで、主部が充実しているかを確認します。
 

現在の請求項に関わる記載


主部の1つは、請求項に記載されている発明の特有性に関わる記載です。
具体的には、請求項に記載されている概念の定義と例示、発明の特徴部分を実現するための手順、アルゴリズム、構造などです。


たとえば、VR技術をつかって仮想旅客機で飛行することで、ユーザに擬似的な搭乗体験を提供する発明があるとします。
「搭乗体験」という用語は少し抽象的なので、旅客機内を模した仮想空間において客室乗務員(アバター)と会話すること、飛行機の揺れを感じること、窓から地上や雲を見ること・・・など搭乗体験の具体例を列挙します。
さまざまな搭乗体験を成立させるアルゴリズム(仕組み)の説明も必要です。

搭乗体験はこの発明の重要な構成要件なので、搭乗体験に関する記載は主部です。
 

将来の請求項に関わる記載


主部のもう1つは、将来の請求項を見据えた記載です。

請求項(権利範囲)は、補正によって変化します。
補正に使える記載が充実しているほど、権利範囲を細かく調整できます。
補正に使いそうな記載は主部です。
補正に使えるかもしれないけれども、実際には使いそうもない記載は主部ではありません。

補正や分割出願によってまったく新しい請求項を作ることもできます。新しい請求項をつくるためにはその根拠となるべき記載が必要です。
将来作るかもしれない請求項に備える記載も主部です。

たとえば、仮想旅客機が発着する空港でも擬似的な空港体験を提供するというアイディアを請求項にする可能性があるのであれば、「空港体験」についても具体例を列挙しながら丁寧に説明します。
空港体験について十分に記載されていれば、仮想旅客機が発着陸する仮想空港にて空港体験を提供する発明という特許をつくることができます。

現在または将来の請求項に関連する記載は、しっかりと書き込みます。
 

主部と副部を分ける


副部は、発明の特有性との関連性が薄い部分です。
ソフトウェア特許における機能ブロック図やハードウェア構成図は副部です。

特許明細書に請求項とは直接関係しない発明Xが記載されていれば、他社は発明Xで特許を取得できなくなります。
開示によって他社の特許取得を邪魔する効果のことを後願排除効といいます。
たとえば、明細書の末尾に「変形例」として後願排除効をねらった記載をしておきます。
他社の邪魔さえできればいいのでそれほど厳密に書く必要はありません。

発明を説明する都合上、書かざるを得ない記載もあります。
新型ブロッチェーンの発明の場合、先に従来型のブロックチェーンの仕組みを説明してしておいた方が発明の特徴を理解してもらいやすくなります。
従来型のブロックチェーンの説明は副部となり、新型(発明)の特徴は主部となります。
副部については、厳密性よりもわかりやすさを優先した方が読みやすくなります。
一方、主部は請求項(権利範囲)に関わる部分なので厳密さが必要となります。

最初から最後まできっちりと書くよりも、主部(重要情報)と副部(非重要情報)を分けておき、主部、いいかえれば、論点になる部分/論点なるかもしれない部分に力を入れて書く方が読みやすいですし、経済的です。
 

シミュレーションと主部


出願時の請求項から審査官がどのような文献調査をするか、それによってどのような引用文献を見つけられるかを予測しておきます。
次に、想定される引用文献を克服するためには、どのような補正が必要になるか、どのような反論をできるかを検討します。

自分ならこの発明の特許性をどうやって否定するかをシミュレーションしておき、それに対抗するための補正手段や論理を用意しておきます。こういった記載は主部となります。

シミュレーション通りになれば、大幅な補正(妥協)をしなくても特許を取得できます。

参考:「特許の権利範囲をサポートする記載」「特許原稿のチェック方法(1)