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特許を“取って終わり”にしない、分割出願の活用方法

三谷拓也 | 2026/04/07
特許を取得できたらミッション完了、とは限りません。

特許を取得するとは、権利範囲を確定させることです。
権利範囲が確定すれば、他社は特許回避できるように製品設計します。

この特許回避を封じる上で「分割出願」は非常に有効な手段です。
分割出願を使えば、将来でてくるかもしれない競合製品(類似製品)を執拗に狙うことができます。

特許は請求項で決まる


特許は、請求項(特許請求の範囲)と明細書の2パートを含みます。

・請求項:権利として主張する範囲(実際の権利)
・明細書:発明の内容を説明する部分

重要なことは「明細書に書いてあること」ではなく「請求項に書いてあること」だけが権利になるという点です。


特許明細書に書いてあることの一部が、請求項になっているので、

・明細書の情報量>請求項の情報量

となります。明細書には、請求項にしていない部分、すなわち、権利範囲外の情報がたくさん含まれています。
明細書に他社製品の特徴が書いてあったとしても、請求項にその特徴が入っていなければ権利行使はできません。
 

特許を取得できても安心はできない


特許を取得できても、他社製品を完璧に排除できるとは限りません。

以下のような例を想定します。

・X社は、請求項A1について特許P1を取得する。
・Y社は、請求項A1(権利範囲)を分析する。
・Y社は、請求項A1を回避できるように製品設計した上で、製品D1を出荷する。

Y社の製品D1は特許P1の技術思想を使っていたとしても、特許P1を侵害していないので法的には問題ありません。



Y社に回避設計を強いることで製品開発コストを増加させることができたので、特許P1はちゃんと機能しています(「特許は「時間」を稼ぐ」)。
とはいうものの、特許P1は、競合製品D1の開発を阻止することはできませんでした。

分割出願で競合製品を追いかける


Y社の製品D1がX社の特許P1の技術思想を使っている類似製品なら、特許P1の明細書には製品D1の特徴のいくつかが書かれているはずです。

分割出願では、元の明細書に書かれていた内容から、別観点の請求項を作ることができます。

製品D1には、A1という特徴はありませんが、A2という特徴は実装されています。特許P1の明細書にはA2について書いてあります。
そこで、Y社製品を狙った請求項A2をつくって分割出願し、特許P2を取得します。
つまり、特許P2は、後追いで製品D1を権利範囲に収めます。



特許P2は他社製品D1を狙ってカスタマイズした権利です。
製品D1は特許P2の侵害品ということになります。

Y社の製品D1は、特許P1(請求項A1)なら回避できていますが、特許P2(請求項A2)には直撃されています。

こうなるとY社は、特許P2の権利化を阻止する、製品D1の設計を再変更する、などの追加対策が必要になります。

分割出願は“ホーミングミサイル”


Y社が製品D1を出荷停止し、更に設計変更して製品D2を開発したとします。製品D2は特許P2を回避しています。
そうしたら今度は、X社は設計変更後の製品D2を狙った分割出願をします。

こんなふうに設計変更後の製品を狙った分割出願を繰り出すことでY社が類似製品を開発するのを阻止します。

「Y社の製品」というターゲットが明確であるため、分割出願の請求項はY社製品の仕様をそのまま表現するような具体的・限定的な請求項でも構いません。
請求項を狭くすれば特許になりやすいですし、特許が成立すれば無効化もされにくくなります。

分割出願はいわば“ホーミングミサイル”のように機能します。

分割出願で追尾能力を維持する


分割出願をできるのは、親となる出願が係属中であること、という条件があります。
特許査定を受けて登録手続きを完了させると分割出願はできなくなります。
したがって、特許査定が確定する前に分割出願をしておく必要があります。

実務的には、
・特許査定が出たら分割出願だけはしておく。
・分割出願の請求項はあとで考える(あるいはあらかじめ考えておく)。
という対応をします。

分割出願という「追尾能力」だけ確保しておき、競合製品が出てくれば分割出願の請求項をカスタマイズして狙い撃ちします。
分割出願時に競合製品が見当たらなくても、将来に備えて分割出願を常に残しておくことで追尾能力を維持し続けます。

他社特許について抵触鑑定(侵害鑑定)するとき、「分割出願を残しているか」というのは重要なチェックポイントです。
分割出願がなければ権利範囲は確定しているので、あとはどうやって回避すればいいかを考えることに集中できます。
しかし、分割出願が残っていれば追尾攻撃を受ける可能性があるため、対策は非常にむずかしくなります。

結局、分割出願を残しているような特許は危険なので安易に近づかない方がいい、ということになります。
その結果として類似製品を作りづらくなります。
 

分割出願を活かせるかは明細書で決まる


分割出願戦術が有効に機能するかどうかは明細書次第です。
いろいろなことがしっかりと書かれているほど、追尾能力も高くなります。

したがって、

「充実した明細書」×「分割出願戦術」

というコンビネーションであれば、たった1件の特許であってもその価値は飛躍的に増大します。
知財予算に限りのあるスタートアップ企業にとっては、知っておくと役に立つ戦術です。

分割出願を使って特許の価値を最大化する


特許は取得できたら完了ではありません。

発明は請求項にすることで権利になります。
請求項が確定すると、競合はそれに合わせて回避設計をします。
しかし、分割出願が係属していると請求項が確定しないため、回避設計をしづらくなります。
分割出願さえ残っていれば追尾能力を確保できます。
この追尾能力が強い抑止力になります。

特許として確定すれば、権利範囲、いわば、着弾地点(攻撃対象範囲)も決まります。
分割出願は着弾地点を決めていないミサイルのようなものです。
そして、明細書が充実しているほど、着弾地点を大きく動かすことができます。

1つの特許を取得するだけではなく、特許を取得したあとも、次の特許の可能性を残し続けることで、競合企業に強いプレッシャーを与えることができます。

参考:「特許は「時間」を稼ぐ」「分割出願戦術の破綻リスク