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開発前特許で市場優位を確立する特許戦略

三谷拓也 | 2024/11/10

開発にともなって生まれる特許


製品開発中にはさまざまな発明が生まれます。
こうして生まれた発明を特許で保護することにより、製品を守ります。
以下、このようなタイプの特許のことを「後続型特許」とよぶことにします。


過去の製品や他社の製品の課題を見つけ出し、課題の解決方法を考えることで発明が生まれます。
解決した課題は、製品のセールスポイントになります。
課題が1つ解決されれば、新しい課題が生まれます。1つの課題を解決することで、別の課題が見えてくることもあります。

課題が尽きることはないので、発明も尽きることはありません。

大半の特許は、後続型特許として生まれます。
後続型特許は、開発活動の成果物なので、製品イメージに沿った特許になります。

製品実装の特許への影響


後続型特許は、製品実装に影響されやすい傾向があります。
製品実装と特許内容を整合させようとしすぎると、特許の範囲(権利範囲)は狭くなります。


製品実装の影響が強すぎる後続型特許は、特許の範囲が自社製品の一部をカバーしているものの、他社にとっては魅力も興味もない特許になってしまうという潜在的リスクがあります。

特許の範囲が狭すぎると、自社製品にそっくりなのに特許回避もできてしまうような製品を作ることができます。

したがって、後続型特許をつくるときには、製品実装を念頭に置きつつも、特許を取得可能かつ特許価値もキープできるようなちょうどいい塩梅の特許の範囲を模索する必要があります。

後続型特許1件だけで製品を守るのは難しい場合も多く、複数の後続型特許を次々と取得することで総合的な防御力を高めるというのが定石となります。

開発着手前に生まれる特許


製品開発に着手する前でも、発明は生まれています。
製品開発に着手する前には、製品のコンセプトや大まかなシステム構成などが検討されます。

ユーザインタフェースや製品外観などまで検討されることもあります。
こういうところにも発明はあります。

検討の結果として、プレゼン資料、議事録、メモ、ホワイトボードへの書き込み、社内の情報共有ツールへの投稿など、さまざまな成果物が生まれます。
検討結果は、なんらかの形に、特に、視覚化することが大事です。
視覚化できれば、論理化は可能であり、論理化できれば特許出願も可能となります。
以下、このようにして得られる特許のことを「先攻型特許」とよぶことにします。
 

コンセプトをまるごと押さえてしまう


「先攻型特許」とは、製品開発に着手する前に、製品コンセプトを押さえる特許です。
先攻型特許の出願段階では、製品が具体化されていませんので、知財活動を通して製品イメージを固めていく必要があります。
先攻型特許は、製品開発がめざすべき目標地点を指し示す戦略的な特許です。

開発は、先攻型特許のイメージに沿って進みます。
先攻型特許は、製品企画会議だけでなく、製品化の可能性が不確定なアイディア段階からも生まれます。

新しいライフスタイルやビジネスモデルを提案する発明や、業界のゲームチェンジを狙うような発明は、先攻型特許に特に向いています。

先攻型特許は、たとえば、メタバースを活用した体験型教育プログラム、ドローンと農業機械を連携させた農業、コンピュータゲームと筋トレを組み合わせた新体験・・・のような漠然としたテーマから生まれることもしばしばです。

後続型特許は解決型の発明であることが多く、先攻型特許は提案型の発明であることが多いといえます。

先攻型特許は、製品の具現化に先駆けて、コンセプトの新しさ自体を押さえてしまうことを目的としているのが特徴です。


先攻型特許のいいところは、製品イメージがまだ固まっていないため、特許内容が製品仕様の影響を受けないことです。
自社製品を意識せずに発想をふくらませることができるため、思い切った特許の範囲を設定しやすくなります。
結果として、このタイプの特許は基本特許になりやすいという強みがあります。

その反面、製品がまったくない状態での特許出願になるので、担当者間でのイメージ共有が必要となります。雑多な話をまとめるスキルも必要なので、後続型特許とは特許実務のやり方が異なります。

先物買いのような先攻型特許


先攻型特許は製品仕様が固まる前に出願されるため、実際に製品化される際に、製品仕様と特許内容が一致しなくなることもあります。
特許出願から1年以内であれば国内優先権制度を利用して発明を補足できます。
1年以上経過している場合には、製品仕様に合わせた追加の特許出願をします。

先攻型特許は、特許内容と製品仕様が大きくずれてしまうことで、無駄になってしまうリスクもゼロではありません。
また、結局製品化されることなく、先攻型特許だけが残ってしまうということになるのもめずらしくありません。

先攻型特許は、市場性や製品化可能性が不透明な状況で出願されるため、「無駄ダマ」になってしまうリスクがあります。
一方、うまくハマれば、先攻型特許には後続型特許数十件分以上の価値が生まれる可能性もあるため、大きなリターンが期待できるチャレンジとも言えます。

先攻型特許は、未来の可能性に手付けを打つようなものです。

先攻型特許と後続型特許の併用


特許の範囲が広い先攻型特許を取得することで、事業のための広大な独占領域を確保しておきます。
そして、開発が進む中で新たに得られた成果を次々と後続型特許として確保していきます。

先攻型特許で大きな領域を押さえ、その領域を起点として開発を進め、開発成果をさらに後続型特許で具体化していくことで「独占的地位」を固めます。

特許は、さまざまな観点から取得することが重要です。
たとえば、ビジネスモデルやシステム構成の大きなコンセプトを先攻型特許として先に確保しておき、それを実現するために開発されたさまざまな要素技術についても後続型特許を取得していくことで、製品に関する特許防御が層をなして強化されます。

提案型の先攻型特許と解決型の後続型特許を併用し、製品が市場に登場するころには充分な特許ポートフォリオが完成していれば、「オンリーワン製品」としてのポジションを確立できます。

新規事業のネタを特許にしておく


新規事業の企画段階で先攻型特許を取得します。
先攻型特許を確保した新規事業が有望そうであれば、更に検討を進めて追加で特許の「積み増し」をします。
特許活動を進めることで、新規事業のイメージが詳細化されていきます。
先攻型特許は新規事業の道標になりますし、先攻型特許に取り組むことで視野も広がります。

新規事業のコンセプトについて大型の先攻型特許を取れていれば、優位性を確保した上で新規事業に取り組むことができます。
先攻型特許で新規事業のイメージをつくった上で、技術開発を進めていくことは、知財経営の理想形といえます。

参考:「図解:特許ポートフォリオとは何か」「アイディアの出し方(3)