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特許をめぐる番号

三谷拓也 | 2019/04/13
発明案件(テーマ)は、さまざまな番号によって識別・管理されます。
発明案件の番号は、非公式(私的)な番号公式な番号の2種類に分けることができます。


非公式な番号



非公式な番号には、弁理士(特許事務所)が付与する番号(以下、便宜上「事務所番号」とよぶ)と、出願人(企業)が付与する番号(以下、便宜上「企業番号」とよぶ)の2種類があります。

非公式なので番号の決め方はまったく自由です。


(1)事務所番号

クライアント(企業)から特許出願を依頼されたとき、特許事務所は発明案件に事務所番号を付与します。
事務所番号は、特許事務所の内部ルールによって決まります。クライアントの略号、年度、通し番号などの組み合わせで決まることが多いです。
外国出願をする場合には「US」などの国名を追加することもありますが、以下、日本国内に絞った話にします。

(2)企業番号

企業(クライアント)も、発明案件に企業番号を付与します。一般的には、年度や通し番号などを組み合わせることが多いです。
未出願段階の発明案件には、通常、事務所番号と企業番号が付与されます。企業番号は付与されないこともあります。

特許出願の願書に「整理番号」を記載する欄があります。整理番号として、通常、企業番号を記載しますが、企業番号がないときには事務所番号を記載します。


公式な番号



公式な番号はいろいろありますが、主なものは、出願番号、公開番号、登録番号です。

(1)出願番号

特許事務所は、特許出願書類を作成し、出願端末(パソコン)から特許出願します。このとき、特許庁から「出願番号」を含む受領書がオンラインで通知されます。
出願番号は「特願(西暦)-(通し番号)」という形式で付与されます。「特願2019-123456」であれば、2019年に受け付けられた123456番目の特許出願という意味です。

出願番号の「通し番号」を見れば、今年はどのくらいの特許出願がされているのか、例年に比べてどのくらい増減しているのかを推測できます。

(2)公開番号

特許出願から1年半が経過すると、特許庁は特許出願書類をインターネットで公開します(出願公開)。いいかえれば、特許出願をしても1年半が経過するまでは技術は秘密として扱われます。出願公開に際し、特許庁は「公開番号」を付与します。
公開番号は「特開(西暦)-(通し番号)」という形式で付与されます。「特開2020-234567」であれば、2020年において234567番目に公開された特許出願という意味です。

特許出願書類が公開されると、そこに記載された発明は「公知技術(みんなが知っている技術)」として扱われます。以後、出願公開された発明に類似した発明で特許を取ることはできなくなります。出願公開には、「技術水準(特許を取るために必要なレベル)」を上昇させるという法的効果があります。

発明→出願→公開(技術水準の上昇)→発明→・・・というプロセスにより、特許権を取得するために必要なレベルが徐々にアップしていきます。いろいろな発明が次々に出願公開されて技術水準がどんどん高くなるので、それに負けないように技術開発をしなければならなくなります。

特許法は、発明を出願公開させることで技術進歩にドライブをかけることを狙っています。特許庁(行政府)が特許権を与える目的は、表彰ではなく、技術の秘匿を防止することです。逆にいえば、特許権を諦める代わりに技術を秘匿するという選択肢もあります。

(3)登録番号

審査の結果、特許権に値する発明であると認められると、特許庁は「登録番号」を付与します。
登録番号は「特許(通し番号)」という形式で付与されます。たとえば、「特許第3456789号」であれば、日本国で成立した3456789番目の特許権という意味です。

ちなみに、特許第1号(1885年出願、1885年成立)は、船舶用の防錆塗料に関します。当時の特許庁(専売特許所)の長官は高橋是清でした。発明者の堀田瑞松(ほった・ずいしょう)は工芸家です。

ほとんど毎日のように新しい特許出願がなされ、そのうちの一部は特許権となり、しばらく存続したあと、順次消滅していきます。特許権が消滅しても、「出願公開」により発明が公開されたという事実は残るので技術水準は不可逆的に上昇を続けます。

現在(2019年4月12日)、日本で成立した特許権の累計は約650万件であり、アメリカで成立した特許権の累計は約1030万件です。もちろん、大部分の特許権は消滅(権利終了)しています。
ついでに、日本で成立した特許権について調べてみたところ、昭和生まれの特許権の累計は約173万件(年平均で約2.7万件)、平成生まれの特許権の累計は約398万件(年平均で約13.2万件)でした。


制約と自由



下の図は、時点T1を現在時点としたときの複数の特許権の存続状態を年表風に示しています。
特許権P1~P6のうち、時点T1では特許権P1~P4は消滅し、P5,P6は存続しています。

特許権P1~P4に関わる技術はかつて独占されていましたが、時点T1の前に消滅(失効)し、時点T1では自由に使うことのできる技術(自由技術)になっています。一方、特許権P5,P6に関わる技術は、独占状態にあります。下の図は、時点T1よりも少し未来の時点T2における複数の特許権の存続状態を示しています。
特許権P5は消滅し(自由技術化)、特許権P6はまだ存続しています。また、特許権P7,P8が新たに成立しています。

特許権P1~P4に加えて特許権P5に関わる技術も自由技術になったので、技術開発の自由度は広がったといえます。一方、特許権P7,P8に関わる技術(より高度な新技術)は、独占状態にあります。


このようにして、特許権消滅による自由度の拡大と、特許権の成立による新しい制約が繰り返し発生します。