結論から言えば、もちろん、アルゴリズムは特許になります。
発明の資格
特許法でいう「発明」とは「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」です。
自然法則を利用しているか、が発明認定のポイントになります。
特許庁の審査基準では、自然法則を利用していないものとして、
・自然法則以外の法則を利用している
・人為的な取り決めにすぎない
・数学上の公式
・人間の精神活動
などが挙げられています。
パーキンソンの法則のような経験的な法則は、自然法則とは認められません。
ゲームのルールは「人為的な取り決め」ですし、アルゴリズムは「人為的な取り決め」でもあり「数学上の公式」でもあります。
特許法に「自然法則」の定義はないのですが、誰が発明を使っても繰り返し同じ結果が得られるという事象の再現性を想定しているようです。
事象の再現性こそが技術の本質なので、要するに、技術であればいいということになります。
コンピュータは自然法則を利用している
コンピュータは、いったんソフトウェアを作ってしまえば、誰に対しても繰り返し同じ結果を出力可能な事象再現装置です。
コンピュータは、ソフトウェアの指示にしたがってメモリやCPUに含まれる膨大なトランジスタを制御し、電気(自然現象!)を使ってしかるべき結果を生じさせているので、コンピュータは「自然法則を利用している」という理屈になります。
したがって、アルゴリズムがソフトウェアとして実装され、ソフトウェアがコンピュータを使ってアルゴリズムを実行するとき、自然法則が利用されていることになります。
こういう理屈があるので、コンピュータゲームやビジネスモデル特許、フィンテック特許(金融の特許)など、一見すると自然法則と関係のなさそうな発明でも特許になるのです。
上の図に示すように、特許審査は2段階で行われます。
第1段階では、特許法上の「発明」に該当するか判断します。
発明と認定されれば、第2段階でその発明が特許に値するか判断されます。
シャープ・レシオも発明?
一例として、投資でリスクを取ったとき、そのリスクに見合ったリターンを得ているかを判断するための計算式としてシャープ・レシオがあります。
シャープ・レシオも計算方法なので、アルゴリズムの一種と言えます。
シャープ・レシオは、運用成績を判断するための指標として考えられたものです。
シャープ・レシオがなければ運用成績評価ができないというわけではなく、運用成績評価のための便利な計算式としてシャープ・レシオという数式を考えた、ということなので、シャープ・レシオは人為的取り決めである(人為的取り決めにすぎない)といえます。
もし、シャープ・レシオというものを初めて思いついたとき、請求項にシャープ・レシオの数式をそのまま記載すると「自然法則を利用していない」と認定されるので特許は取れません。
しかし、シャープ・レシオを計算するアルゴリズムを実現するプログラム、方法、装置として表現すれば、より具体的には、コンピュータを使っていること、コンピュータで使うためのものであることが請求項に表現されていれば「自然法則を利用している」と認定されますので、審査の第1段階はクリアできます。
コンピュータに実装されるのなら発明
このように、ビジネスの方法や、医療の診察方法、金融の仕組み、ゲームのルールであっても、その手順がアルゴリズムとして論理化(定式化)され、アルゴリズムがコンピュータによって実行されるのなら「発明」になります。
どの程度まで発明をコンピュータっぽく表現すべきかは状況次第なのですが、審査官に「人間がやっている作業と見分けがつかないような表現になっている」と見なされたら、発明とは認定してもらえません。
アルゴリズムAを実装するコンピュータ、という特許を取得できたとします。
こうなると、パソコンであろうと、スマホであろうと、アルゴリズムAを実装するソフトウェアをインストールした時点で特許侵害になります。
アルゴリズムAを実装するコンピュータについて特許を取得するとは、アルゴリズムAについて特許を取ったのとほとんど同等です。
人為的取り決めや、自然法則以外の法則、人間の精神活動が関わるとしても、発明が全体的に自然法則を利用していると判断できるのなら、特許を取得できます。
こうなると、なんでもありです。
とんでもなく強烈な特許が成立する可能性は常にあります。
また、AIなんかは典型例ですが、ビジネスにおけるアルゴリズムの価値は急速に高まっています。
こういう背景があるので、特許が物議をかもしやすい分野でもあるし、特許の審査方法についても手探りが続いている分野です。
参考:「ビジネスモデル特許とは何か」「アルゴリズム特許を取得すべきか」